講演情報
[ES7]集団遺伝学の世界にようこそ
○岡田 随象1,2,3 (1.大阪大学 大学院医学系研究科 遺伝統計学, 2.東京大学 大学院医学系研究科 遺伝情報学, 3.理化学研究所 生命医科学研究センター システム遺伝学チーム)
集団遺伝学は、集団内における遺伝子変異の挙動を検討する学問分野である。特定の集団内における遺伝子変異の時間的変化、異なる集団間における遺伝子変異の地理的な伝播など、ゲノム情報の時間空間的な挙動が検討されている。近年はバイオバンク由来の大規模ゲノム情報や、疾患ゲノム解析による感受性遺伝子変異と統合した情報解析により、新たな知見が生み出されている。
生物の性質が世代を経るごとに周囲の環境に対応して変化する現象を適応進化と呼び、その過程でゲノム配列の集団内多様性に変化が生じる。日本人集団を対象とした自然選択圧解析からは、ADH1BおよびALDH2遺伝子領域における顕著な選択圧が見出され、アルコール代謝(飲酒量)や、栄養代謝(脂質、血糖値、尿酸値)に関わる形質に影響を与える遺伝的変異が、適応進化の主な対象であったことが判明している。ALDH2遺伝子変異においては、食生活習慣、疾患、バイオマーカー、腸内細菌叢と、極めて多彩な多面的関連が認められている。
ゲノム解析の大半は集団内の任意交配を仮定しているが、実際には成立していない例も知られている。類似した表現型を持つ個体同士が任意で予想されるよりも高い確率でペアを形成する現象として、同類交配が知られ、欧米人集団においては身長や学歴に対して報告されている。ゲノム全体の形質関連変異を統合するpolygenic risk score(PRS)を異なる染色体間で比較することで同類交配の検討が可能となる。我々は、日本人集団の大規模ゲノム情報を対象に、多彩な形質のPRSを計算し、同類交配の影響を検討した。結果、2型糖尿病、心血管疾患、軽微な運動習慣、食生活習慣で、有意な同類交配の影響を観測。一方、身長に対する同類交配の影響は日本人集団では顕著ではなかった。
大規模疾患ゲノムデータに対して最新の集団遺伝学手法を適用することで、ゲノム個別化医療の社会実装に貢献するものと期待される。
生物の性質が世代を経るごとに周囲の環境に対応して変化する現象を適応進化と呼び、その過程でゲノム配列の集団内多様性に変化が生じる。日本人集団を対象とした自然選択圧解析からは、ADH1BおよびALDH2遺伝子領域における顕著な選択圧が見出され、アルコール代謝(飲酒量)や、栄養代謝(脂質、血糖値、尿酸値)に関わる形質に影響を与える遺伝的変異が、適応進化の主な対象であったことが判明している。ALDH2遺伝子変異においては、食生活習慣、疾患、バイオマーカー、腸内細菌叢と、極めて多彩な多面的関連が認められている。
ゲノム解析の大半は集団内の任意交配を仮定しているが、実際には成立していない例も知られている。類似した表現型を持つ個体同士が任意で予想されるよりも高い確率でペアを形成する現象として、同類交配が知られ、欧米人集団においては身長や学歴に対して報告されている。ゲノム全体の形質関連変異を統合するpolygenic risk score(PRS)を異なる染色体間で比較することで同類交配の検討が可能となる。我々は、日本人集団の大規模ゲノム情報を対象に、多彩な形質のPRSを計算し、同類交配の影響を検討した。結果、2型糖尿病、心血管疾患、軽微な運動習慣、食生活習慣で、有意な同類交配の影響を観測。一方、身長に対する同類交配の影響は日本人集団では顕著ではなかった。
大規模疾患ゲノムデータに対して最新の集団遺伝学手法を適用することで、ゲノム個別化医療の社会実装に貢献するものと期待される。