講演情報
[ES8]網羅的遺伝子解析:パネル解析から全エクソーム/全ゲノム解析まで
○古庄 知己1,2,3,4 (1.信州大学 医学部 遺伝医学教室, 2.信州大学医学部附属病院 遺伝子医療研究センター, 3.信州大学医学部 クリニカル・シークエンス学講座, 4.信州大学 基盤研究支援センター)
2000年代に入り次世代シークエンス(next-generation sequencing:NGS)が登場したことにより、遺伝子解析は飛躍的な進化を遂げた。サンガー法を軸としたそれまでの遺伝子解析では、巨大な遺伝子を解析すること、また同時に複数の遺伝子を解析することは困難であった。NGSは大量並列的な遺伝子解析を可能にする技術であり、網羅的な遺伝子解析が迅速かつ低コストに実現できるようになった。現在、研究・臨床の現場では、パネル解析、全エクソーム解析、全ゲノム解析が行われている。パネル解析は、数十〜数百の候補遺伝子を同時に解析できるように設計された解析法である。いわゆる難病の診断目的に、国内衛生検査所(かずさDNA研究所など)、病院(信州大学医学部附属病院遺伝子医療研究センターなど)において標準的に用いられている。2022年現在、遺伝学的検査が保険適用されている疾患は191に上る。遺伝性腫瘍の診断のためのマルチジーンパネル検査は、海外では標準的な遺伝学的検査法となっているが、国内では保険適用されていない。がん組織を用いたがん遺伝子パネル検査は、がん患者の治療薬を見いだすための新たな検査法として保険適用され全国で行われている。全エクソーム解析は、全遺伝子のコード領域(全ゲノムの1-2%)を濃縮して解析する網羅的かつ効率的な方法であり、数多くの遺伝性疾患の原因遺伝子単離に貢献してきた。国内では未診断疾患イニシアチブ(IRUD)の軸となる解析法として用いられてきた。全ゲノム解析は、ゲノム全体を捉えることで大規模なゲノム構造変化やイントロン部位のバリアントも検出しうる。東北メディカル・メガバンク機構によるデータベース構築では数万人規模で解析が行われ、また最近のがん研究、IRUD研究においても積極的に活用され始めている。本講演では、こうした網羅的遺伝子解析を概説する。