講演情報

[IL4]ほ乳類の子育てと親和的社会性の神経機構

黒田 公美 (理化学研究所 脳神経科学研究センター 親和性社会行動研究チーム)
哺乳類の子は未成熟に生まれ、親による子育てを生存に必要とする。そのため親には子を育てる養育行動、子には親への愛着行動に必要な神経回路が存在する。そして実際に親子関係を経験し学習することにより、これらの神経回路が洗練され、実際の親子関係が上手にできるようになると考えられる。
 私達は家族で子育てをする齧歯類 ハツカネズミ(マウス)、旧世界ザル コモン・マーモセット、ヒトを対象に、親子関係の神経メカニズムを研究してきた。これまでの研究で、げっ歯類の子育てには前脳底部の内側視索前野MPOAが重要であることが知られていたが、私たちはMPOA中央部cMPOAに局在するCalcitonin receptor(Calcr)発現神経細胞が子育て行動特異的に必要であることをマウスで見出した。また同じ細胞種がマーモセットのcMPOAにも存在し、子を拒絶せず背負い続ける子育てに必要であった。さらに最近では、メスマウスが孤独を感知し仲間を求める行動にcMPOAのCalcrとそのリガンド、Amylin系神経伝達が必要であることがわかってきた。
ダーウィンの時代から、成体間の高度な社会性の進化的起源は子育てにあると仮定されてきたが、今回の知見は、この古くからある仮説に物質的な根拠を与える可能性がある。本日の話題提供が、共感や利他性など、現代の人間にとって大切な脳機能の神経機構とその起源について考察し皆様からのご意見をいただく機会となれば幸甚である。