講演情報

[LS10]治療薬の登場により変わりつつある脊髄性筋萎縮症診療

荒川 玲子 (国立国際医療研究センター病院 臨床ゲノム科)
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy : SMA)は、SMN1の機能喪失型変異による下位運動ニューロン病である。SMNタンパクの不足により脊髄前角細胞が変性し、進行性の筋萎縮を生じる。常染色体潜性遺伝性疾患であり、乳児期死亡を引き起こす遺伝性疾患のなかで最も頻度が高い。Ⅰ型 (Werdnig-Hoffmann病) は重度の筋萎縮、呼吸不全により多くの症例で乳児期に人工呼吸器管理が必要となる。Ⅱ型は坐位までの運動発達があるが生涯にわたって歩行不能、Ⅲ型は歩行を一旦獲得するが徐々に歩行が困難となる。治療薬開発が長く待ち望まれていたなかで、SMN タンパクの機能を補充する3剤の医薬品が日本国内で上市された。
 生物においてはヒトのみがSMN1の重複遺伝子であるSMN2を有している。SMN1は全長型SMNタンパクを産生するが、SMN2ではゲノム配列上の1塩基相違によりエクソン7の選択的スプラインシングが生じ、大部分が不安定な短縮型SMNタンパクとなる。そのため、SMN1が機能喪失している患者においては、SMN2は存在するもののSMNタンパクが不足をきたす。
 リスジプラムはSMN2スプライシング制御により、SMN2由来の機能性全長型SMNタンパク発現増加をもたらす低分子化合物である。経口投与により全身に分布し、運動機能改善効果を発揮する。日本人16名を含む国際共同治験において有効性の検証および安全性の検討が行われ、日本においては2021年に発売された。1日1回の経口投与であり、在宅でのSMA治療が現実のものとなった。髄腔内投与による核酸医薬品、静脈内投与による遺伝子治療薬と共に、SMAの医療を変えつつある。
 本講演では、リスジプラムの国際共同治験の結果を紹介し、治療薬が変えたSMA診療について、そして治療薬上市後のここから新たに始まる遺伝医療について考えていきたい。