講演情報

[LS11]がんゲノム医療と家族性膵がん

松林 宏行 (静岡県立静岡がんセンター ゲノム医療推進部 遺伝カウンセリング室(内視鏡科 兼務))
膵癌は近年も増加傾向を示す予後不良な癌腫である [年間罹患者数:1999年 20,009人、2009年 31,183人、2019年 43,865人、5年生存率:8.5%]。 膵癌の5-10%は家族性に発症し、第1度近親者に2人以上の膵癌症例がいる場合には家族性膵癌と呼ばれている。家族性膵癌家系では近親者における膵癌症例数が多くなるにつれて膵癌のリスクが上昇する。膵癌の発症リスクを上げる遺伝性疾患にはPeutz-Jeghers症候群 (STK11)、遺伝性膵炎 (PRSS1)、家族性異型母斑黒色腫症候群 (CDKN2A/p16)、遺伝性乳癌卵巣癌 (BRCA1/2)、Lynch症候群 (ミスマッチ修復遺伝子) 等があるが、それらを全てあわせても家族性膵癌症例の2割に満たない。欧米では家族性膵癌登録制度を母体として、2000年頃から疫学、病理、臨床の観点で幅広い研究が行われて来たが、日本では2014年に漸く家族性膵癌登録制度が発足し、近年いくつかの研究が始まっている。臨床医療の現場では、2019年にがんゲノム医療が始まり、マイクロサテライト不安定性(MSI)検査やBRCA遺伝学的検査がコンパニオン診断として保険収載されたことで、膵癌症例の遺伝性を調べる機会が増えている。がんゲノム医療における膵癌症例の割合は決して少なくないが、進行が早い膵癌における遺伝カウンセリングや遺伝学的検査には、患者の身体状況や精神的負担などからしばしば困難を伴う。また、膵癌の遺伝性リスクを有する者に対しては超音波内視鏡 (EUS) やMRI等を用いたサーベイランスが推奨されていているが、まだ十分な成績とは言えない。実臨床ではバリアント遺伝子ごとに異なる膵以外のリスク臓器もコンプライアンスよくサーベイランスすることが必要とされ、遺伝医療における保険適用の拡大や医療機関側の工夫も求められる。