講演情報

[LS13]疾患ゲノム研究におけるプロテオーム解析の有用性

岡田 随象 (大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム)
ゲノム解析技術の著しい発達により、膨大なデータが得られる時代が到来した一方、大容量のオミクスデータを横断的に解釈し、社会還元するための学問へのニーズが高まっている。大規模ヒト疾患ゲノム解析により同定された疾患感受性遺伝子変異の生物学的意義を検討する際に、遺伝子変異が細胞内や生体内環境に与える影響を定量化するquantitative trait locus(QTL)解析が有用である。従来は、細胞内の遺伝子発現量を対象としたexpression QTL(eQTL)解析や血液中の代謝物量を対象としたmetabolome QTL(mQTL)解析が主流であった。近年、DNAタグが付与された抗体および次世代シークエンス技術を活用することでタンパク質をハイスループットで定量化する技術が確立され、注目を集めている。従来のELISAや質量分析計によるタンパク質定量手法と比べて微量のタンパク質の同定や実験バッチ間の補正に優位性があるとされており、バイオバンク由来の大規模サンプルを対象としたproteome QTL(pQTL)の実施が技術的に可能となった。バイオバンク規模のpQTL解析については、イギリスのUKバイオバンクを中心に先行報告がなされている。eQTL解析とpQTL解析を比較した場合、対応関係にある遺伝子とタンパク質に着目しても、結果が異なる例が報告されており、両者の間には異なる制御機構が存在すると考えられている。タンパク質は疾患バイオマーカーおよび創薬標的の直接的な候補となりうることから、今後は多彩な生体試料を対象としたプロテオーム解析が展開されていくものと期待される。新型コロナウイルス感染症においてもプロテオーム解析は活用され、重症化バイオマーカー探索に貢献を果たしている。我々は、日本人集団における新型コロナウイルス感染症の機序解明を目指してコロナ制圧タスクフォース(Japan COVID-19 Task Force)を結成し、研究活動を進めている。本講演では、プロテオーム解析の現状と共に、我々の研究活動を紹介したい。