講演情報

[LS3]急増する炎症性腸疾患における臨床的課題を遺伝子解析からアプローチする

角田 洋一 (東北大学病院 消化器内科)
クローン病・潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患(IBD)は近年急増しており、指定難病でありながら国内に約30万人以上いると推定される。多因子疾患として知られて、その遺伝的背景については欧米で数万人規模のゲノムワイド相関解析が行われ240か所以上の疾患感受性領域が同定されているほか、最近ではMonogenic IBDと呼ばれる集団も明らかになるなど遺伝的背景の解明が進められている。<br/> 一方IBDの診療を行う臨床医にとって、遺伝的背景の解明に期待するのはその病因の解明だけではなく、患者に合わせた適切な治療選択へ活用法である。抗炎症剤であるメサラジン製剤、免疫抑制作用のあるチオプリン製剤といった古典的な薬剤は現在も治療に活用されている基本治療薬であるが、その副作用が問題となっている。いずれも日本人に最適化されたジャポニカアレイを用いた解析が行われ、特にチオプリンに関してはNUDT15遺伝子多型と副作用との強い関連が確認されたことで保険適用検査となった。一方、2002年以降、特定の分子をターゲットとする分子標的薬が数多く発売され治療選択肢が急増している。しかし、薬剤のそれぞれの寛解率は10-30%程度であり、治療反応性もさまざまである。治療ターゲットであるTNFαや、IL12B、JAKなどはいずれもIBDの疾患感受性遺伝子であり、治療開発という意味では臨床的意義のある遺伝子解析が行われてきたといえるが、実際の臨床の現場において、これらの薬剤の使い分けが問題となっている。薬剤反応性は患者個人ごとで多彩であり、これらをより的確に識別できる患者層別化因子の一つとして遺伝子解析に期待が寄せられている。本講演では、炎症性腸疾患の診療を行う臨床医として、臨床医が遺伝子解析に期待すること、そしてその実現にむかって我々が行っている様々な取り組みについて紹介したい。