講演情報

[LS8-1]ファブリー病の早期治療開始の重要性

小林 正久 (東京慈恵会医科大学 小児科)
ファブリー病は、ライソゾーム酵素であるα-galactosidase Aの欠損によって発症するX連鎖遺伝形式の先天代謝異常症である。典型的な古典型男性患者では、幼児期から学童期に四肢末端痛、発汗障害で発症し、20代より尿タンパクを、30代以降に進行する腎不全、心肥大、脳血管障害を発症する。ファブリー病は、X連鎖遺伝形式だが、発症年齢、臓器不全の進行は遅いものの、女性ヘテロ接合体も発症する。女性の臨床的重症度については多様性を認めるが、60代以降になるとほぼ全例が心肥大を発症するため、女性ヘテロについても治療対象としてフォローアップする必要がある。
 2004年より、わが国で酵素補充療法が保険承認され、ファブリー病は治療可能な先天代謝異常症の1つである。酵素補充療法の効果として、四肢末端痛の軽減、発汗障害の改善、腎障害の進行の抑制、左心肥大の軽減あるいは進行の抑制、脳血管イベントの抑制が報告されている。しかし、治療開始時点で1日尿タンパクが1g/日を超える、腎病理所見で糸球体の半数以上に糸球体硬化を認める、心臓のガドリウム造影MRIで心筋の線維化の所見を認める例のように臓器障害が進行した場合は、酵素補充療法の効果が乏しくなることが報告されている。そのため、ファブリー病では、各臓器障害が進行する前に診断し、治療を開始することが重要である。
一方で、アメリカ、ヨーロッパなどのファブリー病のコホート研究では、発症から診断まで15年前後要すると報告されており、これは世界的な傾向でファブリー病診療における重要課題となっている。この問題を解決するためには、ファブリー病の自然歴を理解し、臨床症状からファブリー病を疑い、早期治療につなげることが必要となる。本講演では、ファブリー病の早期治療介入の重要性、臨床症状からファブリー病を疑うポイントについて概説する。