講演情報
[O1-1]ヒトAPOBEC3遺伝子調節領域にかかる平衡選択とウイルス感染爆発の痕跡
○藤戸 尚子1, Sundaramoorthy Revathi Devi1, 颯田 葉子2, 井ノ上 逸朗1 (1.国立遺伝学研究所 人類遺伝, 2.総合研究大学院大学 先導科学研究科)
APOBEC3酵素はシチジン脱アミノ化酵素であり、ウイルスゲノムに突然変異を導入することでウイルスの複製を阻害し感染を防ぐ。APOBEC3の7つのファミリー遺伝子は22番染色体の200kbほどの領域に隣接して存在し、発現パターンとウイルス特異性において互いに異なることが知られている。本研究では、APOBEC3クラスター内の調節領域(16 kb)に、平衡選択の痕跡を見出した。この平衡選択にかかる複数のハプロタイプグループは、系統樹上でそれぞれ、正の自然選択を示唆する星形樹形を示す。このうちグループAは非アフリカ集団、アフリカ集団で共に高頻度(~50%)に見られ、塩基多様度及びアレル内多様性を用いた解析により、どの集団でもグループのTMRRCAは約6万5千年前と推定された。これはヒトの出アフリカ移住の時期に重なり、出アフリカ以前に人類が経験したウイルス感染爆発の存在を示唆する。これに対し、グループBはアフリカでも保存されているものの、非アフリカ集団では同じ祖先型ハプロタイプから約6万年前に拡散したことが示され、アフリカ集団と非アフリカ集団の分岐後に起きた感染爆発が示唆された。GWASカタログの検索の結果、グループBに共有されるアレルは喘息と関連するアレル2個 (OR=2.13, p=3x10-6、及び OR=1.43~1.52, p=3x10-7) を含むことが判明し、APOBEC3調節領域ハプロタイプが免疫状態に影響を与えていることが示唆された。また公開されているGTExのeQTLデータも、グループA、BのそれぞれがAPOBEC3遺伝子群の発現に影響を与えていることを示唆している。発表ではこの平衡選択の生物学的な意義を合わせて議論したい。