講演情報

[O1-4]FUT2遺伝子変異の進化遺伝学的解析

中 伊津美, 大橋 順 (東京大学 大学院理学系研究科)
19番染色体に位置するfucosyltransferase 2遺伝子(FUT2)は、a(1,2)フコース転移酵素(Se酵素)をコードし、分泌腺や分泌液中のABH抗原の発現を制御している。また、FUT2の多型によって、ABH抗原が発現する分泌(Se)型と発現しない非分泌・低分泌(se)型が規定されている。先行研究により、se型を示す多型は集団特異的に存在していることが知られており、428G>Aナンセンス変異はアジア地域で観察されない一方、385A>Tミスセンス変異はアジア地域特異的に観察される。最近、我々は日本人COVID-19 患者において、se型を示す385A>TとCOVID-19抵抗性との有意な関連を報告した。【目的】非アジア地域でse型を示す428G>Aナンセンス変異と、アジア地域でse型を示す385A>Tミスセンス変異について、変異の由来と自然選択が作用した可能性を調べる。【方法】1KG phase3を用いてFUT2を含む周辺領域の連鎖不平衡解析を実施した。旧人を含め、約6千人の古代人の遺伝子型を調べた。決定論的方程式を利用して選択係数を計算した。【結果】 482Aハプロタイプは、アフリカ地域では多様性が高いが、非アフリカ地域で多様性が低かった。385Tハプロタイプは多様性が低く、比較的最近生じた変異と考えられた。旧人はse型アリルを保有していなかった。482Aは約15000年前のGoyetQ-2(ベルギー)で、385Tは約8000年前のYumin(中国)に観察された。Relateを用いて1KGプロジェクト集団を解析した公開データを参照したところ、428Aは約100万年以上前、385Tは1万7千年~2万年前に誕生したと推定されていた。推定した選択係数は0.025程度であった。【考察】se型はCOVID-19発症抑制のほかにも、ノロウイルス、ロタウイルス抵抗性などとの関連が報告されている。アジア地域では428A変異が失われたが、385T変異が生じ、正の自然選択を受けて急速に頻度が上昇したと考えられる。