講演情報

[O2-3]SRSF7は年齢依存的スプライシングを通じて若年性トランスクリプトームを形成する

森 雅樹 (国立循環器病研究センター研究所 血管生理学部)
生後の成長プロセスにおいてスプライシング・パターンが変化するかどうかは知られていない。オルタナティブ・スプライシングは同一のゲノムDNAから複数の転写産物を生成し、有限の長さのゲノムDNAを有効活用する仕組みになっている。胎児期には特有のスプライシング・バリアントが発現するケースが知られているが、生後の成長過程においてオルタナティブ・スプライシングが起こるかどうかは調べられていなかった。マウスにおいて若年期 (生後1, 7, 14日目) と成獣期 (生後8週) の大脳皮質、心筋細胞、肝細胞で網羅的なトランスクリプトーム解析を行うことにより、生後も広範なスプライシング・パターンのスイッチングが起きていることが判明した。それぞれの臓器で数百のオルタナティブ・スプライシングが発見され、それらを「年齢依存的オルタナティブ・スプライシング (age-dependent alternative splicing, ADAS)」 と呼んでいる。引き続き、ADASの責任分子の探索を行い、若年期に高発現する「若年性遺伝子 (juvenility-associated genes, JAGs)」の中から、スプライシング因子であるSRSF7を同定した。SRSF7は代謝遺伝子のスプライシング・スイッチなどを担い、Srsf7の変異マウスではADASの異常な早期進行が惹起される。若年性トランスクリプトームはヒトでも高度に保存されており、生命にとって本質的な機構であると考えられる。このように、若年期に特異的なオルタナティブ・スプライシングにより、特有の転写空間である若年性トランスクリプトームが形成される。