講演情報

[O21-5]ゲノムコホート研究におけるBRCA1/2病的バリアント保持者への遺伝情報回付:遺伝情報回付による心理的・社会的影響の解析

大根田 絹子1, 濱中 洋平1,2, 川目 裕1,3, 鈴木 洋一1,4, 長神 風二1,5, 布施 昇男1,5, 山本 雅之1,5 (1.東北大学 東北メディカル・メガバンク機構, 2.東北大学大学院 医学系研究科 乳腺内分泌外科分野, 3.東京慈恵会医科大学附属病院 遺伝診療部, 4.上尾中央総合病院 臨床遺伝科, 5.東北大学 未来型医療創成センター)
【背景・目的】前回我々は、東北メディカル・メガバンク計画において全ゲノム解析を実施した地域住民約4700人のうち、遺伝情報の返却(回付)を希望した BRCA1/2病的バリアント保持者6名(参加者)に対して、遺伝情報を回付するパイロット研究を実施したことを報告した。今回は、遺伝情報回付による心理社会的影響等を解析する目的で行った時系列別調査の結果を報告する。【方法】調査は、同意取得時・遺伝情報回付時・回付から6か月後・12か月後の4回、自記式質問紙法(多肢選択肢・自由回答併用)により実施した。研究参加への意識、家族との遺伝情報の共有、医療機関受診状況等について質問し、心理評価の尺度として、Kessler 6 scale、POMS2短縮版、改訂出来事インパクト尺度(IES-R)を行った。【結果】既報のとおり、参加者は男性2名、女性4名、全員60-70歳台であり、2名に乳癌の既往があり、5名は遺伝性乳癌卵巣癌の家族歴を有していた。遺伝情報回付は、対面による同意取得とシングルサイト確認検査実施後に行い、全員が東北大学病院を受診した。回付12か月後の調査では、6名中5名が東北大学病院でのサーベイランスを継続していた。全員が遺伝情報を家族と共有し、参加者3名の娘が BRCA1/2遺伝子検査と遺伝カウンセリングを受けていた。心理評価の3つの尺度では、同意取得時から総スコアの個人差が大きく、遺伝情報回付の直接的影響を示唆する大きな経時的変化はみられなかった。遺伝情報を知ったことについて、4名は本人と血縁者の役に立った、2名はわからないと回答した。【結語】今回の小規模なパイロット研究において、一般住民への遺伝情報回付は、心理社会的な影響は限定的なものにとどまり医療面で参加者とその血縁者に裨益することが示唆された。今後は対象者を拡大し、社会実装を目指した研究を実施する予定である。