講演情報

[O3-2]旧人由来候補変異密度を用いた非アフリカ人集団の集団史に関する検討

三輪 華子, 大橋 順 (東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻)
【背景】ネアンデルタール人・デニソワ人といった旧人の全ゲノム配列が解析され、現在の非アフリカ大陸のホモサピエンスの祖先が、先んじてユーラシア大陸に進出していた旧人と混血していたことが明らかとなった。旧人との同一の混血イベントを経験した集団を祖先にもつ現代人集団では、染色体上の旧人由来ゲノム領域が一致する傾向があると考えられる。現代人集団間の旧人由来ゲノム領域をマーカーとして用いて、非アフリカ人集団の集団史を検討した。【方法】現代人集団のデータとして、1000 Genomes Project で解析された全ゲノム遺伝子型データ(Phase3)を用いた。旧人のゲノムとしては、マックスプランク進化人類学研究所が公開しているAltaiネアンデルタール人、Vindijaネアンデルタール人、Chagyrskayaネアンデルタール人、デニソワ人のデータを対象とした。「旧人ゲノムにおいてホモ接合である変異であり、かつ、YRI(アフリカ大陸・Yoruba集団)には存在せず非アフリカ集団で観察されるもの」を、非アフリカ人集団における旧人由来候補変異として先ず選択した。次に、各候補変異に対し、その周辺ゲノム領域における候補変異密度(密度スコア)を計算し、密度スコアの高い変異を旧人由来と仮定した。これを用いて非アフリカ系集団間での旧人由来成分の共有度合いを調べ、祖先集団における混血や集団分岐の順序を検討した。【結果・考察】デニソワ人由来と考えられるゲノム領域を、ヨーロッパのフィン人集団と東アジア集団が共有していることが示唆された。20,000~25,000年前に東アジアで分岐を始めたY染色体のハプログループNがフィン人集団で63%も観察されることが報告されており、東アジア集団の祖先がデニソワ人と混血した後、一部がヨーロッパへ移動しフィン人集団の祖先となった可能性が考えられる。