講演情報
[O32-1]民間保険の危険選択と遺伝性腫瘍
○横井 左奈1, 鈴木 綾子1, 小原 令子1,2 (1.千葉県がんセンター 遺伝子診断部, 2.国保直営総合病院君津中央病院 遺伝カウンセリング室)
遺伝差別は患者と医療の利益を損ねる可能性があるが、我が国には遺伝差別を禁止する法律は未制定である。米国GINA法を始め、諸外国には法整備がすでになされている。我が国でもようやく2022年4月に日本医師会・日本医学会から声明が出され、それを受けるように日本生命保険協会と損害保険協会からも同様の声明が2022年5月に出された。これで法整備までの基盤が整ったと感じた矢先に、当科のクライエントに関する医療照会をある損害保険会社A社から受け取った。20代男性、親御さんがリンチ症候群として当科を受診しており、血縁者診断を目的として20XX年当科を受診された。特定変異解析の結果、リンチ症候群の未発症変異保持者の診断となった。20XX+2年サーベイランスの大腸内視鏡検査にて早期大腸癌の診断となった。クライエントはすでに加入していた損害保険会社A社のがん保険に支払い請求を行ったところ、A社からリンチ症候群に関する医療照会が届いた。照会内容は、リンチ症候群の診断に至った経緯、確定診断のための検査方法、検査結果の詳細、外来にて話した内容など多岐にわたっており、遺伝学的検査結果や遺伝カウンセリング内容を求めるものであった。すでに、上述の声明は発出されており、A社も損害保険協会に名を連ねる会社であった。A社に問い合わせたところ、リンチ症候群は告知義務のある病名であり、保険の引受、支払請求の評価に必要であるから情報提供を求める、との返答であった。我が国では声明は出されたものの、実社会では上述のことが現実に起きており、罰則を含めた早急な法整備が必要であると思われる。