講演情報

[P18-8]自身の遺伝性疾患を家族に「伝える」ー成人期発症常染色体顕性遺伝性疾患を有するクライエントとその家族への遺伝カウンセリング

佐久 彰子1, 中村 勝哉1,2, 黄瀬 恵美子1,3, 小島 朋美1, 永井 爽1, 小平 農2, 古庄 知己1,4,5 (1.信州大学 医学部附属病院 遺伝子医療研究センター, 2.信州大学 医学部 脳神経内科、リウマチ・膠原病内科, 3.信州大学 医学部附属病院 看護部, 4.信州大学 医学部 遺伝医学教室, 5.信州大学 医学部 クリニカル・シークエンス学講座)
【緒言】疾患の遺伝リスクについて家族に「伝える」には、葛藤が生じ得る。今回、成人期発症の常染色体顕性遺伝性神経筋疾患(A症)と診断されていたが、家族には「伝えて」いなかったクライエント(CL)が、診断から約40年後に家族に「伝えた」1家族に対する遺伝カウンセリング(GC)の経験を報告する。【症例】60歳代男性。家族は、妻、既婚の長女、パートナーのいる長男からなる。母がA症と診断された際に身体的特徴からCL(当時20歳代)も同疾患と診断された。日常生活に支障がないため専門医療機関への受診はなく、妻と子に「伝えて」いなかった。来談3か月前、同胞の子(30歳代)が歩行困難となりA症が疑われたことを契機に、CLと母がA症と診断されていたことを妻が知った。子への「伝え方」の相談を希望し当センターに来談した。初回GC(妻と来談)では、A症の概要や遺伝形式について情報提供した上で子への「伝え方」を話し合った。CLは言葉少なで落ち着いた態度だったが、妻は「聞いていなかったからこんなことに」と医療者の発言を遮る場面もあった。GC後、CLから子へ「伝えられた」。子からの求めがあり、CLは遺伝学的な診断の確定を希望し、再び来談した。「できることはしてあげたい」と語る一方で、「(子がA症を持つとしても)大丈夫だよと伝えてあげたい」との発言もあった。【考察】CLは長期にわたって疾患を意識せずに生活しており、家族に「伝える」必要性を感じていなかった。一方で、妻や子は急速に歩行困難に至った家系員の様子を伝聞した後にCLがA症を有することを知った。このためCLと妻・子の間には、A症に対する解釈モデルや疾患を「伝える」ことに対する姿勢に乖離がみられた。CLは家族の困惑を目の当たりにすることで負い目を感じ、自らの気持ちを飲み込んでいる可能性がある。CLの自律的な意思決定を尊重するために、CLが意思表示をできる環境を整えていく支援が必要と考えた。