講演情報
[P26-1]ホルモン治療(HT)不応の経過がLynch症候群(LS)と診断する契機となった子宮体癌の1例
○古川 正義, 高田 史男, 阿部 翠, 小島 郁, 中村 基寛, 北見 和久, 遠藤 真一, 高田 恭臣, 加藤 一喜 (北里大学 医学部 産婦人科)
【緒言】子宮体癌の多くはエストロゲン暴露による子宮内膜増殖病変を経て発症する事が知られている。若年子宮体癌患者では、IA期の類内膜癌G1で妊孕性温存(FP)を強く希望した場合にはHTを行う事がある。多くの場合HTが奏効し一時的に寛解すると報告されている。今回、HT不応の経過が契機となりLSの診断に至った子宮体癌症例を経験したので報告する。【症例】36歳、1経妊1経産。既往歴に特記事項はなかった。不正性器出血を主訴に近医を受診し、子宮体癌が疑われ当院紹介となった。家族歴は、父が直腸癌と膵臓癌、母が卵巣癌、叔母が大腸癌、妹が卵巣癌だった。IA期の子宮体部類内膜癌G1と診断され、FP希望だったためHTを開始した。初回治療効果判定で癌は認められなくなったが、2回目の判定では類内膜癌を認めた。治療開始から僅か3カ月で子宮体癌の再燃を認め家族歴の再聴取を行い、祖父は大腸癌の可能性があった事、叔母の直腸癌は16歳発症で父の大腸癌は33歳発症である事など、いずれも若年発症である事が確認された。また妹も子宮体癌だった事が判明しLSを疑った。その後、子宮悪性腫瘍手術を施行し、子宮体部類内膜癌G1のIA期(pT1aN0M0)、再発低リスク群と診断された。家族歴の再聴取でLSを強く疑ったため、マイクロサテライト不安定性(MSI)検査を実施したところHighと判定され、免疫染色ではMSH2とMSH6が陰性(不染)であった。その後の遺伝学的検査でMSH2遺伝子に病的バリアントを認め確定診断に至った。【結語】若年子宮体癌は増加傾向でFPを希望する患者が増えている。LSにおける子宮体癌症例では、エストロゲン暴露とは異なる経路での発癌を来すため、HT不応となる可能性がある。若年発症の子宮体癌患者にFPを考慮する場合にも、常に遺伝性腫瘍症候群を鑑別に挙げ、病的バリアント保有遺伝子を共有する血縁者や家族への対応も行いながら、時機を失することなく根治的な治療を検討する必要があると考えた。