講演情報
[P26-4]リンチ症候群で経過中に4重癌が発生した1例
○石井 政嗣1, 菅野 康吉2, 青木 幸恵2, 牧島 恵子2, 高井 響子2, 白川 博文1, 竹前 大3, 豊田 尚潔4, 豊田 知香3, 安藤 二郎3, 森実 千種5 (1.栃木県立がんセンター 肝胆膵外科, 2.栃木県立がんセンター 遺伝カウンセリング科, 3.栃木県立がんセンター 乳腺外科, 4.栃木県立がんセンター 大腸外科, 5.国立がんセンター中央病院 肝胆膵内科)
リンチ症候群は大腸癌、子宮体癌をはじめとする様々な固形腫瘍を発症する常染色体顕性遺伝性疾患でミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントが原因であることが知られている。症例は40代女性、45歳時に左乳癌に対して、左乳房全摘術を施行し、術後補助化学療法施行後、ホルモン治療を5年間継続した。53歳時に対側乳癌を発症し、右乳房全摘術を施行し、同様に術後補助化学療法、ホルモン治療を施行した。64歳時に乳癌の胸壁再発があり、再度ホルモン治療を施行した。その経過中に画像検査で膵体部腫瘍を認め、精査の上、膵体部癌と診断し、膵体尾部切除を施行した。68歳時に膵癌局所再発を認め、化学療法を開始した。家族歴で第1近親内に膵癌、白血病、第2近親内に膵癌、胆管癌の既往を認めることから遺伝性乳がん卵巣がんを疑い多遺伝子パネル検査を実施したところBRCA1/2遺伝子は野生型であったが、MSH2遺伝子に病的バリアントを認め、膵がん組織のマイクロサテライト不安定性検査でMSI-highと判定され,リンチ症候群と診断された。69歳時に免疫チェックポイント阻害剤の適応であったが、本人の意向により、化学療法+放射線照射を施行した。さらに同年、盲腸癌を認め、内視鏡的粘膜下層剥離術を施行した。70歳時に腫瘍マーカーの上昇があり、Pembrolizumabを8コース施行したが、膵癌の進行が進み、71歳で死亡した。本症例はリンチ症候群に発症した4重癌と考えられる。MSI-highの胆道癌、膵癌の発生頻度はそれぞれ1.3%、1%前後、MSH2遺伝子の病的バリアントによる胆道癌、膵癌の発症頻度はそれぞれ0.02-1.7%、0.5-1.6%程度と考えられるが、本症例の場合は本人含めて第2近親内に4名が胆道癌、膵癌、乳がんの集積が認められた。経過中に4種類の癌を発症しているが、どの癌種でも遠隔転移を認めず、難治癌である膵癌の発症から比較的長い経過を辿ることが可能であったと考えられる。