講演情報

[P26-5]大腸癌症例における家族歴の臨床的意義の検討

水内 祐介1, 田辺 嘉高2, 田村 公二1, 佐田 政史1, 永吉 絹子1, 永井 俊太郎2, 仲田 興平1, 大内田 研宙1, 久保 真1, 中村 雅史1 (1.九州大学大学院医学研究院 臨床・腫瘍外科, 2.北九州市立医療センター 外科)
大部分の大腸癌は環境因子、生活習慣、加齢などにより大腸粘膜に遺伝子変異が蓄積することで発生すると考えられているが全大腸癌の20-30%は血縁者に多発することから家族性大腸癌とも呼ばれている。その中の一部(5%)についてはその原因遺伝子が同定されており遺伝性大腸癌と呼称されている。最近、PD-1阻害薬であるペンブロリズマブがMSI-H進行再発固形癌に保険収載され、今後大腸癌の約2-4%を占めるリンチ症候群が期せずして発見される可能性が高まっている。そこで我々は大腸癌における家族歴の臨床的意義を再検討することとした。1971年3月から2018年12月に当院で手術を施行した初発大腸癌4445例を対象として家族歴の臨床的意義について検討した。家族歴を持つ大腸癌は662例に認め、Propensity score matchingを用いて年齢、性別、腫瘍局在、進行度、腫瘍マーカー、原発巣切除の有無でマッチングして、家族歴を持たない3783例との比較検討を行った。マッチング前の状態で家族歴あり群はなし群と比較すると、若年(P<0.001)で、女性が多く(P=0.041)、自覚症状ありが少なく(P<0.001)、局在は直腸に少なく右側結腸に多く(P=0.242)、多発大腸癌は多く(P=0.049、腫瘍マーカーは低く(P=0.266)、遠隔転移はいずれも少なく(P=0.025)、進行度は低い(P=0.143)傾向にあった。そのためそのまま予後を比較すると家族歴なしで有意に予後が悪かった(P=0.025)。両群のマッチングはJMP ver.16を用いてCaliper係数0.01で行った。マッチング後には両群に588名が残り、予後解析を行ったところ予後曲線は完全に重なり予後に差を認めなかった(P=0.943)。家族歴のある大腸癌には様々な臨床病理学的な特徴があるが、家族歴の有無のみで癌の生物学的悪性度に影響を与えるわけではない。