講演情報

[P26-6]乳癌治療後のリスク低減卵管卵巣摘出術によって新たに卵管癌の診断に至った遺伝性乳癌卵巣癌の1例

永瀬 慶和1,2, 田中 あすか1, 小松 直人1, 谷口 翠1, 黒田 実紗子1, 市川 冬輝1, 甲村 奈緒子1, 増田 公美1, 岡 藤博1, 横井 猛1 (1.市立貝塚病院 産婦人科, 2.大阪大学大学院 医学系研究科 産科学婦人科学教室)
【緒言】生殖細胞系列のBRCA病的バリアントに起因する乳癌および卵巣癌を遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)という. HBOC女性におけるリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は卵巣癌の発症リスク減少および全生存期間の延長効果が示されており, 本邦でも2020年4月より保険収載され, 実施症例数は増加している. 今回, 我々は乳癌治療後のRRSOによって新たに卵管癌の診断に至ったHBOCの1例を経験した. ここでは, 本症例の経過を報告するとともに, 適切な術後治療に関する検討を行った.【症例】50歳, 実母に膵癌の家族歴を有する女性. ER/PgR(-), HER2増幅(-)であるトリプルネガティブ乳癌(cT2N1M0)に対して手術および化学療法を実施された. 生殖細胞系列の遺伝学的検査によってBRCA1病的バリアントを認めたことからHBOCの診断に至り, 当科にてRRSOを実施した. 術前の画像検査では卵巣卵管病変は指摘されなかったが, 術後病理検査によって卵管癌(高異型度漿液性癌) IA期の診断に至った. 追加手術として進行期決定のための手術(子宮全摘, 後腹膜リンパ節郭清, 大網切除)を提案するも, 患者は希望されず, 十分に協議したうえで術後補助化学療法(PTX+CBDCA)のみを実施する方針となった.【考察】卵巣卵管癌における標準治療としては, 子宮摘出や両側付属器摘出を含む進行期決定のための開腹手術および術後補助化学療法が推奨されている. IA期の低異型度非明細胞癌などの条件を満たす症例では縮小手術や術後化学療法の省略が考慮されるが, HBOC患者を対象とした治療縮小に関する検討は殆どなされていない. そのため, HBOCにおけるRRSOで新たに診断された卵巣卵管癌に対して同じ治療縮小条件が適応されるべきかは不明であり, 治療選択に関しては患者との十分な協議が必要である. 【結語】HBOCにおけるRRSOによって新たに診断された卵巣卵管癌に対する追加手術や術後化学療法の必要性に関しては, 今後の症例蓄積およびさらなる検討が求められる.