講演情報

[S10-1]クロマチン高次構造とその生物学的役割:酵母からヒト細胞老化まで

野間 健一1,2 (1.オレゴン大学 分子生物学研究所, 2.北海道大学 遺伝子病制御研究所)
大小サイズの異なるクロマチンドメインが多重構造を形成しているのがゲノムの3次元構造(3Dゲノム構造)の全体像である。これら異なるドメイン構造体は、染色体動態、転写制御、DNA複製と修復などの重要な生命現象に関与し、その破綻はがんや発達障害に関わっている。
このドメイン構造の形成に重要な役割を果たすのがStructural Maintenance of Chromosomes(SMC)タンパク質を含むコンデンシンとコヒーシン複合体である。コンデンシンとコヒーシンは、それぞれ分裂期の染色体凝縮と姉妹染色分体の接着に必須であることが示されている。以前から知られていたこれらの役割に加えて、最近では、コンデンシンとコヒーシンがゲノム領域間の相互作用や遺伝子の転写制御にも関与することが明らかになってきている。
私たちの研究室では、分裂酵母モデルを用いて、ゲノムの全体構造がサイズの異なるクロマチンドメインの多重構造体であり、コンデンシンが300-500 kbの大きいクロマチンドメイン(コンデンシンドメイン)を、コヒーシンが30-50 kbの小さいドメイン(コヒーシンドメイン)を形成し、これらのドメインが細胞周期依存的に制御されていることを明らかにした。興味深いことに、コンデンシンドメインは、分裂期の染色体凝縮のユニットとして機能している。
さらに、近年私たちは、ヒトの細胞老化に際して、3Dゲノム構造が再編成されると共に細胞老化に関連した遺伝子の転写が活性化されること、またそのプロセスにコンデンシンが関与していることを見出した。本発表では、分裂酵母モデルを用いた研究から推定される3Dゲノム構造の形成機構や、ヒト老化細胞に形成される3Dゲノム構造とその転写制御における役割などを議論したい。