講演情報

[S10-2]細胞分化におけるエンハンサー・プロモーター相互作用のダイナミクス

久保 直樹 (九州大学 生体防御医学研究所 エピゲノム制御学分野)
発生、分化などの複雑な細胞制御を達成するため、数多くの遺伝子が遠位制御領域による精密な転写制御を受けており、そのためには核内クロマチンの適切なループ構造やドメイン構造 (topologically associating domains: TAD)が要となる。CCCTC-binding factor (CTCF) は、cohesinと複合体を成し、DNAループ構造を形成することで、ゲノム3次元構造の構築に最も重要な因子の一つとされ、実際にCTCFを細胞内から消失させるとTAD構造の多くが崩壊するなどダイナミックな変化が見られる。ところが、こうしたゲノム3次元構造の劇的な変化にもかかわらず、CTCFの消失後も遺伝子の大多数が安定して発現することが報告されている。ただし、CTCFは哺乳類において多くの組織発生に必須であるため、細胞分化に必要な遺伝子発現には影響があるはずである。今回、CTCFに非依存的な、もしくは依存的な遺伝子発現の機序を解明するため、CTCFのエンハンサー・プロモーター相互作用の形成に対する影響を、ES細胞から神経前駆細胞(NPC)の分化過程において全ゲノムで詳細に解析し、CTCFの細胞分化過程の転写制御における役割を明らかにした。また一方で、そうした細胞分化過程における遠位エンハンサー活性の役割を探索する中で、遠位エンハンサー形成に必要とされるH3K4me1を修飾するMLL3/4の酵素活性が、エンハンサー・プロモーター相互作用の形成と転写制御にどのような影響を及ぼすか解析を行った。今回、こうした細胞分化過程におけるエンハンサー・プロモーター相互作用とその転写制御について、CTCFとMLL3/4、それぞれに焦点を当てた研究で得られた知見を紹介する。