講演情報

[S10-3]カニクイザルの発生過程におけるX染色体遺伝子量補正プログラム

岡本 郁弘 (京都大学 高等研究院)
哺乳類の性染色体構成は、雌はXX、雄はXYであるため、雌雄間でX連鎖遺伝子産物量の差を補正するために、雌では2本のX染色体のうち1本を一括して不活性化する「X染色体不活性化」が存在する。また、雌雄ともに2本ある常染色体との差を補正するためにX連鎖遺伝子の発現量を2倍化する「X連鎖遺伝子の発現亢進」が存在する。これらX染色体遺伝子量補正プログラムは胚発生初期に起こるため、ヒトを含む霊長類では、そのプログラムは長らく不明であった。本研究では霊長類のモデル動物であるカニクイザルを用いて、X染色体不活性化開始に必須であるXIST遺伝子に着目し、胚発生過程におけるその作用機序の詳細な解析を行うことで、霊長類の胚発生過程におけるX染色体遺伝子量補正プログラムの解明に取り組んできた。
まず、着床前胚ではヒト胚と同様にXISTは雌雄胚で父母由来のX染色体から発現しているが、X連鎖遺伝子の発現抑制は起きておらず、胚が着床する受精後9日目胚から17日目胚にかけて、栄養膜細胞層、羊膜、上胚盤葉 (epiblast)、下胚盤葉 (hypoblast)の順に組織特異的にX連鎖遺伝子の発現抑制はランダムに起こることを明らかにした。続いて、X連鎖遺伝子発現量を単一細胞レベルで網羅的に調べた結果、雄胚におけるX連鎖遺伝子発現量は着床前の6日目胚から20日目胚にかけて、徐々に亢進すること、雌胚では、X連鎖遺伝子発現の抑制と同時に亢進することを明らかにした。成果は、これからの霊長類のX染色体遺伝子量補正プログラム研究のための礎として期待できる。