講演情報

[S10-4]動く遺伝子、トランスポゾンの謎に迫る:マウス初期胚におけるトランスポゾン制御

塩見 春彦 (慶應義塾大学 医学部 分子生物学教室)
トランスポゾン(転移因子)は内在性の変異源であり、転移を繰り返すことで宿主ゲノム構造と機能の進化に貢献してきたが、一方では転移により宿主遺伝子の構造や機能を変える(欠失、重複、スプライシング異常等)ことで、ヒトの場合、各種疾患の原因ともなってきた。哺乳類初期胚においてトランスポゾンの一過的高発現が起こることが知られているが、このようなトランスポゾンの高発現は転移を伴い、したがって、初期胚ゲノムに様々な変異を導入することが予想される。しかし、実際はそのような高頻度の転移は起こらない。このため、宿主はトランスポゾンの転移を抑制する仕組みを有すると考えられるが、初期胚におけるそのような仕組みは知られていない。一方、宿主にはトランスポゾンの高発現を許す何らかの”利益”があるのではとも予想される。なぜなら、初期胚ゲノムをトランスポゾンの転移から守るためにはトランスポゾンを発現させない、つまり、トランスポゾンを転写レベルで抑制することが最も確実な方法と考えられるからである。私達はこの初期胚における転移抑制機構の解明及びトランスポゾン高発現が宿主にもたらす”利益”の解明に取り組んでいる。本シンポジウムではそれらに関する最新の知見を発表し、議論する。