講演情報

[S13-2]日本臨床薬理学会「診療における薬理遺伝学検査の運用に関する提言」について

安藤 雄一 (名古屋大学 医学部附属病院 化学療法部)
薬理遺伝学検査は、遺伝情報と薬物応答との関連が明らかになっている場合に実施され、その結果により危険な副作用をもたらす薬物や有効性の乏しい薬物の投与を回避したり、適切な投与量を推定したりするなど、患者の診療に有益な情報をもたらす検査である。しかし、現在までほとんどの医療施設において、薬理遺伝学検査は書面による説明と同意(インフォームドコンセント)のもとに実施されてしてきた。2022年5月に日本臨床薬理学会より「診療における薬理遺伝学検査の運用に関する提言」が公開された。この提言によれば、診療目的で実施される薬理遺伝学検査のうち、医療を必要とする遺伝性疾患の確定診断や発症リスクの予測に関連しない項目については、通常の診療と同様に包括同意または口頭同意のもとで実施できる。薬理遺伝学検査によって判明する生殖細胞系列の遺伝情報は単一遺伝子疾患の遺伝学的検査と共通の特徴をもつが、保険や雇用、結婚、教育など社会生活の様々な場面において患者や血縁者が不利益や差別を被る可能性が通常の血液検査や一般的な診療行為と同程度であるというのがその根拠である。2022年3月に改定された日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」では、医療安全やチーム医療の重視という観点から、医療従事者で共有できるよう遺伝情報を診療記録に一元管理することの必要性を明確にしている。そのなかで、薬理遺伝学検査は、他の遺伝学検査と異なる側面があることから、改定ガイドラインからその記載は削除されている。今回の臨床薬理学会の提言が疾患診断や発症予測に関連しない薬理遺伝学検査とその運用を明確にした意義は大きく、今後の国内における薬理遺伝学検査の普及に寄与すると期待される。