講演情報

[S13-4]がん遺伝医療における保険診療の道のりと課題

平沢 晃 (岡山大学学術研究院医歯薬学域 臨床遺伝子医療学分野)
がんゲノム医療は「がん患者の腫瘍部および正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発症予防をおこなう医療(未発症者も対象とすることがある。またゲノム以外のマルチオミックス情報も含める)」と定義される(がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書)。がんゲノム医療においては遺伝子診療部門とがん治療部門が協働で治療のみならず、血縁者も含めた国民全体のがん死低減に向けた貢献が理想であるが、保険未収載の事項が多いことが課題である。
遺伝性腫瘍の遺伝学的検査で保険収載となっている項目はRET、RB、MEM1、BRCA1,BRCA2の5遺伝子のみ(2022年7月時点)であり、早急な解決が求められる。
わが国では2019年よりがんゲノム医療が保険診療として開始し、また2018年よりPARP阻害薬オラパリブ使用のためのコンパニオン診断に遺伝性乳癌卵巣癌の原因遺伝子であるBRCA1/2遺伝学的検査が承認され、さらに令和2年度診療報酬改定では遺伝性疾患としての「遺伝性乳癌卵巣癌症候群」が病名収載されたが、保険対象となるのは乳癌や卵巣癌の既発症者のみである。
遺伝カウンセリングに対する保険適応の見直しも必要で、遺伝学的検査のみに付随する区分D(検査)ではなく、区分B(医学管理等)で実施することが適切である。
わが国は2023年度以降に全ゲノム解析を臨床実装する事を国策とした。今後はがんのみならず難病の遺伝子解析から遺伝性腫瘍が同定される機会が増えることは確実である。 未発症者のがん予防を含めた本質的ながんゲノム医療を推進するためには、患者、家族・血縁者とも連携して、ゲノム情報を患者本人の治療や健康管理に役立てることや血縁者にも有効な情報として活用する体制を構築することが重要である。保険収載化のみならず地方自治体単位での支援も含めて多角的に対応する事が求められる。