講演情報

[S16-2]東アジア人類集団におけるアルコール代謝関連遺伝子に働いた正の自然選択

太田 博樹・小金渕 佳江 (東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻)
ヒトは酒類を摂取すると、その成分であるエタノールは、主に肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH: Alcohol Dehydrogenase)によりアセトアルデヒドへ代謝され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH: Aldehyde dehydrogenase)により、酢酸に代謝される。この中間産物であるアセトアルデヒドは、強毒であり、飲酒時の顔面紅潮や頭痛、吐き気の原因となる。ヒトの肝臓でのエタノール代謝に関与する主な遺伝子は、3つのClass I ADHALDH2である。さらに、ADH1BALDH2には、非同義SNPが存在し、エタノールに対する活性を変化させ、アルコール中毒に対する抑止作用があることが知られている。興味深いことに、エタノールからアセトアルデヒドへ変化する反応、アセトアルデヒドから酢酸へ変化する反応、どちらの反応でも血中のアセトアルデヒド濃度が高くなるアレルの頻度が東アジア人で高い。同じアルコール代謝系に関与する遺伝子で、異なる染色体に位置する遺伝子で、どちらも血中アセトアルデヒド濃度を上昇させる多型の頻度が、東アジアで高くなっているのには、なにか環境適応と関係がありそうだ。実際、集団遺伝学解析すると、正の自然選択がかかったシグナルが検出される。しかし「お酒に弱い変異」が、どのように生存・繁殖に有利に働いたか謎である。本講演では、こうしたアルコール代謝に関連する遺伝子に働いた正の自然選択について、私たちの研究グループの取り組みを紹介する。