講演情報

[S16-4]集団特異的変異と疾患

大橋 順, 渡部 裕介, 中 伊津美 (東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻)
ほぼ全てのタンパク質コード遺伝子には純化選択が作用しており、生じた有害変異は集団中から除去される。有害度合いが強いほど早く除去されるため、強い負の自然選択が作用する変異が複数の集団で共有される可能性は低い。言い換えれば、強い負の自然選択が作用している変異は、集団特異的に観察される可能性が高い。われわれは、負の自然選択が作用している変異を見出すべく、1KGプロジェクトのデータを使用して、各アジア人集団(Japanese in Tokyo, Japan [JPT], Han Chinese in Beijing, China [CHB], Han Chinese South [CHS], Kinh in Ho Chi Minh City, Vietnam [KHV], Chinese Dai in Xishuangbanna, China [CDX])特異的に観察される変異を抽出した。その結果、JPTは他のアジア人集団よりも多くの特異的変異を保有していた。これは、日本人の祖先集団の1つである縄文人集団が日本列島で孤立していたことに起因すると思われる。また、興味深いことに、JPTに特異的な変異が筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子上に集積していた。本講演では、集団遺伝学的視点から、日本人集団特異的に観察される変異の特徴や由来について考えたい。