講演情報
[S17-4]染色体工学技術を用いたダウン症候群モデルマウス・ラットの作製と解析
○香月 康宏1,2 (1.鳥取大学 医学部 生命科学科 染色体医工学講座, 2.鳥取大学 染色体工学研究センター)
ダウン症候群(ダウン症)はヒト21番染色体のトリソミーによって引き起こされる先天性疾患であり、知的障害、特異的顔貌、心奇形や白血病の頻度が高いなどの様々な症状を呈する。一方、どのようなヒト21番染色体上の遺伝子(群)がそれらの症状に関係しているのかは不明な部分が多いのが現状である。これまでに病態メカニズムの解明や治療薬の開発を目的として、21番トリソミーを模倣したダウン症モデルマウスが作製されているが、部分トリソミー(21番上の遺伝子の一部のみトリソミー)やモザイク(ヒト21番染色体が脱落した細胞が混在している状態)という課題があった。また、これまではマウスモデルの作製が中心でラットモデルの作製は技術的ハードルの高さから、ほとんど進められてこなかった。我々は独自の染色体工学技術を活用することで、ヒト21番染色体をマウスおよびラットに導入することでダウン症候群のモデル動物作製を行ってきた(TcMAC21マウスおよびTcHSA21ラットと呼ぶ)。TcMAC21マウスおよびTcHSA21ラットにおいて、導入したヒト21番染色体は安定に維持され(モザイク問題を解決)、ヒト21番上の遺伝子は組織特異的に発現していた。さらに、いずれのモデルでもダウン症候群で見られる種々の症状(心奇形、頭部顔面骨格異常など)を呈した。一方、TcHSA21ラットにおいて、正常ラットに比べて不安様行動の増加、小脳については小葉の分岐形成が低下していた。この現象はTcMAC21マウスでは認められずTcHSA21ラット特異的であった。以上のように、新たなダウン症モデル動物であるTcMAC21マウスおよびTcHSA21ラットは、ダウン症の様々な症状に対応する原因遺伝子の探索や、症状改善のための治療法、治療薬の開発にとって極めて有用な研究資材となることが期待される。