講演情報

[S18-2]神経難病領域における核酸医薬の臨床実装

関島 良樹 (信州大学脳神経内科,リウマチ・膠原病内科)
遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシスはTTR遺伝子変異に起因する常染色体優性遺伝の疾患である.本症に対する疾患修飾療法としては,肝移植とTTRの天然構造である四量体安定化薬の臨床的な有効性が証明され臨床的に用いられていた.しかし,これらの治療では疾患の進行を完全には抑制できないなどの課題が残っていた.このような背景の中で, TTR mRNAを標的とした低分子干渉RNA(siRNA)製剤であるパチシランが開発され,本症患者を対象とした無作為化比較試験の結果が2018年に報告された.その結果,パチシラン群でベースラインに比べ約80%の血中TTR濃度の低下を認め,偽薬群に比べ有意に末梢神経障害の改善が認められた.これを受け,パチシランは2019年にATTRvアミロイドーシスに対する治療薬として本邦で認可された.パチシランは3週間に1回静脈内点滴投与の薬剤であるが,3ヶ月に1回の皮下投与製剤であるブトリシランの有効性が証明され,2022年にFDAに認可された.ブトリシランは現在本邦でも承認申請中であり,年内の承認が見込まれている.さらに最近,CRISPR-Cas9システムを利用したin vivoゲノム編集薬であるNTLA-2001の第I相試験の結果が発表され,安全性に大きな懸念はなく静脈内単回投与で血清TTR濃度を87%低下させることが示された.
神経変性疾患のほとんどは,アミロイドーシスと同様に異常蛋白の蓄積が原因であることが明らかになっており,今後siRNAやASOを用いた核酸医薬,ゲノム編集などの遺伝子治療が多くの脳神経内科疾患に応用されることが期待される.ATTRvアミロイドーシス以外に,脊髄性筋萎縮症に対してもASO製剤であるヌシネルセンやアデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子治療薬であるオナセムノゲンアベパルボベクの有用性も証明され既に実用化されている.またデュシェンヌ型筋ジストロフィ-に対してもASO製剤であるビルトラルセンの有効性が証明され,本邦で認可されている.