講演情報

[S18-4]スプライシング調節型アンチセンス核酸薬のさらなる展開

松尾 雅文 (神戸学院大学 核酸創薬研究(神戸天然物化学)寄附講座)
遺伝病の遺伝子診断が進み、その治療法としてスプライシング調節型アンチセンス核酸(splicing modulation antisense oligonucleotide:SM-ASO)薬が注目されている。私たちはDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)でDMD遺伝子のエクソン内に微細な欠失の異常を発見し、当時では最小のDMD遺伝子の異常であることから「ジストロフィン神戸」として報告した。さらに、その欠失がスプライシング促進配列の消失となってスプライシング時にエクソンのスキッピングを合併すること、また、スプライシング促進配列に相補的な配列からなるASOがエクソンのスキッピングを誘導することを明らかにした。そして、このSM-ASOを用いたエクソンスキッピング誘導によるmRNA編集がタンパクの産生を回復させる画期的なDMD治療法を世界に先駆けて報告した。以来SM-ASOはエクソンのスキッピングのみならずインクルージョンにも応用され、現在では10種以上のSM-ASO薬が規制当局から遺伝病の治療薬として承認されるまでになった。一方、従来ではSM-ASO薬は治療対象となる患者数が多いことが開発要件であった。近年、遺伝子解析手法が進歩し、イントロン内の塩基置換により偽エクソンの形成される異常が次々と発見されている。これらの例では、SM-ASOを用いた偽エクソンのスキッピング誘導は正常なmRNAの産生となり、疾患の完治が期待できる。最近では、この様な完治が期待できる遺伝子の異常を修正するSM-ASOが、たった1人の治療対象であるN-of-1でも開発される展開になっている。これらに加え、私たちはSM-ASOを用いて遺伝子の発現そのものを抑制することに成功した。これは、遺伝病治療の新たな手法となることが期待される。この様にSM-ASO薬の開発は、様々な遺伝病の治療に広がりつつある。