講演情報

[S20-3]骨髄不全のゲノム検査の意義

村松 秀城 (名古屋大学大学院 医学系研究科 小児科学)
遺伝性骨髄不全症候群(inherited bone marrow failure syndrome: IBMFS)は、さまざまな分子学的機構により造血不全をきたす遺伝性疾患の総称である。明確な定義はないが、ファンコニ貧血(Fanconi anemia; FA)、ダイアモンド・ブラックファン貧血、先天性角化不全症(Dyskeratosis congenita; DC)、シュワッハマン・ダイアモンド症候群(Shwachman-Diamond syndrome; SDS)などが代表的な疾患である。原因遺伝子は多岐にわたり、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析が診断に有用である。IBMFSの確定診断において、遺伝子解析が果たす役割は非常に大きいが、現在も遺伝子異常が同定されない症例は存在することから、身体所見・遺伝子解析以外の検査所見・家族歴等による総合的な臨床診断が必要な症例が多いことに留意する必要がある。染色体脆弱性試験およびFANCD2モノユビキチン化試験はファンコニ貧血の、末梢血リンパ球のテロメア長測定は先天性角化不全症のスクリーニング検査として有用である。
治療方針を考えるうえで、後天性疾患である再生不良性貧血(aplastic anemia: AA)とIBMFSの鑑別診断は、きわめて重要である。IBMFSの代表的な疾患であるファンコニ貧血では、AAと同様な強度の移植前処置を行うと重度の移植合併症を起こしてしまうため特別な配慮が必要である。また、近年、体細胞遺伝子変異の獲得により臨床像が軽症化する、somatic genetic rescue (SGR)という概念がIBMFSにおいて注目されている。とりわけ、DCならびにSDSでは、元の原因遺伝子とは異なる遺伝子の体細胞変異を獲得することで症状が緩和される間接的SGR(indirect SGR)が報告されており、興味深い。