講演情報

[S20-5]ドナーの遺伝学的情報判明に伴う課題

江口 真理子 (愛媛大学 大学院医学系研究科 小児科学)
白血病をはじめとした血液疾患や先天代謝異常症に対し造血幹細胞移植が行われるようになり、多くの患者で原疾患の治癒が得られるようになった。この造血幹細胞移植を円滑に進めるために1991年に公益財団法人日本骨髄バンクが設立され、これまで2万5000件を超える骨髄移植が行われた。
 造血器腫瘍では診断や治療効果判定に染色体検査等の細胞遺伝学検査がしばしば用いられる。骨髄移植のレシピエントでも移植後に生着の確認や残存腫瘍細胞の検出に細胞遺伝学的検査が行われるが、その際にドナー由来と思われる異常が見いだされることがある。これらの異常の中には遺伝性疾患と関連し、患者本人・家族の健康管理に有益と考えられる所見も含まれており、ドナーへの開示の必要性が問われてきた。日本骨髄バンクの非血縁者間骨髄採取・移植に係る遺伝学的情報開示に関する審査会議は、ドナー由来と思われる異常所見のドナーへの開示の可否について検討するために2012年に設立された。これまで43例についてドナーへの開示の可否が検討され、ドナーが開示の意思を事前に明示しており、医学的に有益であると考えられる場合には遺伝カウンセリングを通じてドナーに開示されている。
 がんや先天性疾患での網羅的遺伝子解析における二次的所見(偶発的所見)の取り扱いに関しては、AMED小杉班で検討され、開示対象についての推奨度が示されている一方で、細胞遺伝学的検査の開示については明確な指針がないのが実情である。また骨髄移植におけるドナー由来染色体・遺伝子異常の開示に関しては、ゲノム医療における遺伝学的検査とは大きな違いがある。それはドナーが善意で他者の治療のために骨髄を提供しており、基本的には自らの染色体・遺伝子異常の解析を希望や想定していないことである。移植ドナーになったことを後悔させることがないよう、開示にあたり最大限の配慮が必要であり、事前の説明と同意が極めて重要である。