講演情報
[S3-1]オンライン遺伝カウンセリングの利点と課題:臨床・研修・文献からの検討
○山本 佳世乃 (岩手医科大学 医学部 臨床遺伝学科)
海外では2010年代から電話遺伝カウンセリングを皮切りとしてオンライン遺伝カウンセリングとその研究が行われてきた。近年ではCOVID-19の影響によってオンライン遺伝カウンセリングの需要が高まり、多くの研究も実施されている。オンライン遺伝カウンセリングの利点として、遺伝カウンセリング担当者の人的資源不足と地域による遺伝医療の偏在、クライエントの体調や子どもの預け先、移動にかかる費用等のアクセシビリティの問題の改善が挙げられている。当初オンライン遺伝カウンセリングはリアルの遺伝カウンセリングに劣るのではないかと懸念されていたが、現在のところクライエントの満足度、遺伝に関する知識、不安・抑うつ・自己コントロール感など心理社会的項目の結果に大きな相違は報告されていない。しかし、これらは主にアメリカとヨーロッパでの結果であり、日本でのオンライン遺伝カウンセリングの評価はこれからの課題となる。日本の遺伝カウンセリングロールプレイ研修で実施された調査からは、音声よりも視線・表情等の視覚に関する点に問題を感じた参加者が多かったことが明らかになっており、オンライン遺伝カウンセリングでは、非言語的なコミュニケーションを取ることが従来よりも困難である可能性が示唆されている。一般的に日本人は、西洋諸国と比較して感情に伴う表情の変化や音声の変化の幅が狭い傾向にあり、かすかな頷きや目線で相手に感情を伝えることも日常的に行われている。そのため、他国の結果を参考としつつも自国のデータを積み重ねていくことは重要である。加えて、オンライン遺伝カウンセリングを実際に行う上では、クライエントが参加する場所の安全性、近くの医療機関で参加する場合の医療職や遺伝専門職の関与、医療機関未受診クライエントの診療記録の作成方法、診察料徴取方法、検体のロジスティクスなどの細かい調整についても検討を重ねる必要があるだろう。