講演情報

[S6-3]ヒトゲノムの解読困難領域の解析

細道 一善 (東京薬科大学 生命科学部 ゲノム情報医科学研究室)
T2Tコンソーシアムにより、完全でギャップのないヒトゲノムの完全解読が報告され、解読困難領域の多くが明らかとなった。一方で、長年研究されているゲノム領域においてもその複雑さから解読困難な領域がまだ残っており、ゲノム研究の障害となっている。演者はNGSが普及し始めた当初から解読困難領域の一つである主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex; MHC) 領域の解析に取り組んでおり、その解析技術の開発を進めてきた。ヒトのMHCであるHLA領域は自己免疫疾患、がん、造血幹細胞移植に伴うGVHD、ウイルス感染症など数多くの疾患と強い関連を示し、さらには薬剤副作用との関連も示すことから診断、治療、予後予測ならびにその予防を目指した予防医療実現の一つのモデルとなることが期待されるゲノム領域である。HLA領域はヒトゲノムの中で最も多型性に富み、偽遺伝子を含むHLA遺伝子の高度な遺伝子重複が認められる。さらに領域に含まれるHLA遺伝子のうち、医学的に重要なHLA-A, -B, -C, -DR, -DQ, -DPの6座には計33,000種類もの膨大なHLAアレルがこれまでに同定されており、その解析を複雑にしている。一方、HLAを認識する受容体であるキラー細胞免疫グロブリン様受容体(Killer cell immunoglobulin-like receptor; KIR)はナチュラルキラー細胞(NK細胞)に発現し、その遺伝子は約150kbほどの領域に遺伝子クラスター(15遺伝子、2偽遺伝子)を形成している。各遺伝子は活性型と抑制型に大別され、遺伝子の有無としての多型も存在することから、個人ごとで活性型と抑制型のKIRの遺伝子数は異なり、そのバランスによって各人のNK細胞活性が調節されている。本講演では機能的に関連し、いずれも解析が困難なゲノム領域であるHLAとKIRの2つの解読困難領域の解析手法について紹介したい。