講演情報
[S7-2]流産に関する遺伝学的因子
○倉橋 浩樹 (藤田医科大学 医科学研究センター 分子遺伝学研究部門)
流産に至る遺伝学的因子は研究対象となって長いが、いまだ明確なデータは得られていない。例えば、均衡型転座においても、切断点の位置から分離様式や流産率を明確に算出することができず、いまだに疫学データに頼っている。PGT-SRのデータが蓄積するにつれ、なんらかの理論的根拠が得られるものと期待して解析している。単一遺伝子疾患としての習慣流産に関しては、全エクソーム解析が応用され、徐々にデータが出始めている。胎児に胎児無動症候群などの原因遺伝子に病的バリアントが同定されるケースにおいては潜性(劣性)遺伝を示すことが多く、PGT-Mにより回避することができる。夫婦側、とくに母体因子の解明が進んでおり、初期胚における分割停止の原因遺伝子がいくつか同定されている。卵細胞のmRNA decayに関する遺伝子BTG4の病的バリアントが第1回目の体細胞分裂を阻害する発見は興味深い。一方で、一般の習慣流産に関してはいまだ責任遺伝子が特定されない。多因子遺伝病としての習慣流産に関しては、GWAS等によりいくつかの感受性遺伝子座が報告されている。その中でもANXA5のプロモーター領域のSNPはANXA5の発現量と関連するQTLであり、連鎖不平衡にある4つのSNPのマイナーアリルで構成されるM2ハプロタイプは、日本も含めた多くの国から習慣流産と関連することが報告されている。私たちは、ANXA5のプロモーター領域がG4構造をとりうること、そのとりやすさにM2ハプロタイプが影響することを示した。絨毛におけるANXA5の発現の低下が母体血の局所的過凝固状態となり流産しやすさに影響しているようだ。海外ではこれらのSNPを用いたPGTによる胚選択やANXA5製剤の使用も模索されている。