講演情報
[S8-2]プライバシー保護ゲノム解析技術の現状と課題
○清水 佳奈 (早稲田大学 理工学術院)
個人ゲノム配列の解読が急速に進み,医学研究や医療現場における活用が期待されているが,ヒトゲノム配列は個人情報に該当するため,提供者の同意のもと適切にデータを取り扱う必要がある.そこで近年,データの隔離や法整備の推進と並行して,プライバシ保護データマイニングと呼ばれる技術を用いてゲノム情報を分析する方法が国内外において活発に研究されている.プライバシ保護データマイニングはデータの中身を隠したままデータ分析の結果のみを得る技術の総称であり,データを暗号化したまま特定の演算を行うことのできる秘密計算やデータを加工して情報を保護する手法などにより実現される.ゲノム情報解析ではこれまでに,クエリとデータベースを互いに秘密にしたまま類似するゲノム配列を検索する方法や,遺伝型,及び,表現型を秘密にしたままゲノムワイド関連解析を行う方法をはじめとした様々な方法が考案されている.プライバシ保護データマイニングに寄せられる期待は大きいものの,実解析への利用に際しては様々な課題が指摘されている.まず,秘密計算であれば膨大な計算量もしくは通信量が必要となる問題があり,データの加工であれば分析精度が低下する問題がある.計算量/通信量や分析精度は多くの場合,データから漏れる情報とトレードオフの関係にあるため,実用性を重視した方法の中には,厳密には安全とみなせない方法も多く存在する.また,それぞれの手法が達成する安全性が非専門にはわかりにくいことがしばしばあり,システムを安全に運用するには専門的な知識が必要となる不便さもある.本講演では,現状の技術動向を紹介しながら,今後の展望について議論したい.