講演情報
[SL2]未病の数理:複雑系数理モデル学からのアプローチ
○合原 一幸 (東京大学)
本講演では、未病の数理的研究に関する講演者らのこれまでの研究成果を紹介する。
まずはじめに、複雑系の数理研究の一般的な研究基盤となる、複雑系制御理論、複雑ネットワーク理論、非線形データ解析、データ駆動モデリングなどから成る複雑系数理モデル学の概要を解説する。遺伝子ネットワークや脳をはじめとする様々な生体システムは、複雑系の典型例と考えることが出来る。次に、この複雑系数理モデル学に基づいて構築した、未病状態を検出するためのDNB(動的ネットワークバイオマーカー:Dynamical Network Biomarkers)理論を説明する。未病状態はしばしば、健康状態と疾病状態の間の状態であると理解されているが、このあいまいな定義だとあまりに広すぎて未病状態を検出することが難しい。そこで、健康状態から疾病状態へ(余次元1の)局所分岐を介して状態遷移する直前の状態として未病状態を数理的に定義した。この定義ですべての未病状態をカバー出来る訳ではないと思われるが、他方でこの定義に従う未病状態を検出するための数理データ解析の理論的枠組みを構築することが出来る。この未病状態の検出を可能とするのが、DNB理論である。本講演では、内閣府/JSTムーンショット目標2のプロジェクトとして現在研究中の成果、たとえばマウスモデルを用いたメタボリックシンドロームやヒトのH3N2型インフルエンザに関する遺伝子発現データを解析して未病状態を検出した具体例なども紹介する。最後に、DNB理論の応用対象は未病に限られるわけではなく、様々な複雑系の状態遷移の予兆のタイミング検出に活用できることを議論し、その将来を展望する。
まずはじめに、複雑系の数理研究の一般的な研究基盤となる、複雑系制御理論、複雑ネットワーク理論、非線形データ解析、データ駆動モデリングなどから成る複雑系数理モデル学の概要を解説する。遺伝子ネットワークや脳をはじめとする様々な生体システムは、複雑系の典型例と考えることが出来る。次に、この複雑系数理モデル学に基づいて構築した、未病状態を検出するためのDNB(動的ネットワークバイオマーカー:Dynamical Network Biomarkers)理論を説明する。未病状態はしばしば、健康状態と疾病状態の間の状態であると理解されているが、このあいまいな定義だとあまりに広すぎて未病状態を検出することが難しい。そこで、健康状態から疾病状態へ(余次元1の)局所分岐を介して状態遷移する直前の状態として未病状態を数理的に定義した。この定義ですべての未病状態をカバー出来る訳ではないと思われるが、他方でこの定義に従う未病状態を検出するための数理データ解析の理論的枠組みを構築することが出来る。この未病状態の検出を可能とするのが、DNB理論である。本講演では、内閣府/JSTムーンショット目標2のプロジェクトとして現在研究中の成果、たとえばマウスモデルを用いたメタボリックシンドロームやヒトのH3N2型インフルエンザに関する遺伝子発現データを解析して未病状態を検出した具体例なども紹介する。最後に、DNB理論の応用対象は未病に限られるわけではなく、様々な複雑系の状態遷移の予兆のタイミング検出に活用できることを議論し、その将来を展望する。