Presentation Information
[T13-O-3]Slide mechanism presumed by the internal deformation structures of lower Miocene Inamura subaqueous landslide deposits, Kamiichi-machi, Toyama Prefecture, central Japan
*Hiroyuki Arato, Yuzuru Yamamoto1, Koichi Hoyanagi2, Kazuo Kaneko3, Shonen Kunika4, Yasuhiro Yamada5, Kazuya Shiraishi6, Shun Chiyonobu7, Masato Fujita8, Takeru Yoshimoto1, Yuki Sekiyama1 (1. Kobe University, 2. Shinshu University, 3. Tateyama-Kurobe Geopark, 4. Kurobe Yoshida Science Museum, 5. Kyushu University, 6. JAMSTEC, 7. Akita University, 8. Toyama Science Museum)
【ハイライト講演】本口頭発表では,陸上露頭を徹底的に調査し,そこにみられる水中地すべり堆積物の内部変形構造を丹念に調査することで,堆積物が滑動し変形したメカニズムを詳らかに示している.大きな露頭に細かな観察を重ねていくことで水中地すべり堆積物を形成したダイナミクスが明らかにされていく過程に注目したい.(ハイライト講演とは...)
Keywords:
submarine landslide,subaqueous landslide,Kamiichi,Orido Tuff member,overturned fold,ramp anticline,slide surface,drone,3D model
1.はじめに
著者らは,海底地すべりの堆積学的な理解と運動学的なモデルの構築を目的に研究を進めている[1など].その一環として,富山県上市町の稲村露頭(南北約80 m,東西約70 m,最大比高約30 m)に分布する下部中新統稲村水中地すべり堆積物の内部変形構造の調査を実施している[1~4].その結果,滑動および変形様式が明らかになってきたので概要を報告する.
2.手法
一般的な岩相層序ならびに堆積相解析に加え,詳細な堆積構造および変形構造を観察するため一部露頭面の研磨を行なった[1].その結果に基づき,滑動体を構成する砂岩層全8層(鍵層D1~D8)を区別し,露頭全体にわたって追跡した[2].鍵層砂岩の追跡は,肉眼観察地点を起点としてドローン画像から作成した三次元モデル上で行った[4].露頭高所については,高所作業車を用いた近接肉眼観察を併用した[1, 2].
3.結果(図参照)
(1) 層序・構造:下部中新統折戸凝灰岩部層は,前~中期中新世の日本海拡大期に富山県から能登半島にかけて形成された北東-南西方向のリフト帯[5など]南東縁に堆積した複数の単源火山砕屑岩類と関連堆積物からなる福平層の一部層であり,調査地では堆積後の後背地の隆起によって北~北西に約10~25度傾斜している[6].
(2) 岩相・ユニット区分:稲村露頭の折戸凝灰岩部層は,岩相の特徴等に基づき下位からA~Gの7ユニットに区分される.
A:塊状無層理の凝灰岩・凝灰角礫岩層からなる.
B, C:プロデルタ成の凝灰質砂岩泥岩互層からなり,Aを覆う.砂岩・泥岩とも数cm~数10cmの層厚を有し,堆積時のslide等による変形は受けていない.
D:Cを覆い,B,Cとほぼ同等の岩相を有する.ユニット内の逆断層より北側は激しい変形を受けているが,南側ではほとんど変形を受けておらず下位ユニットと調和的な走向傾斜を有する.
E:凝灰岩,凝灰角礫岩の基質に,D上部の砂岩泥岩互層,泥岩などが変形してスランプ状,もしくはブロック状に取り込まれている.D由来のブロックの量および変形度合いは場所によって大きく異なる.
F, G:凝灰岩,凝灰角礫岩からなり,Eを覆う.場所によってE上部の堆積物がF基底面を突き破ってF内に取り込まれている場合がある.
(3) ユニットDの変形様式:Dの互層は,堆積学的特徴の異なるD1~D8の8層の凝灰質砂岩鍵層と挟在する凝灰質泥岩層からなる.砂岩層の層厚はそれぞれ12~52cm程度で,基底部の極粗粒から細粒へ上方細粒化し凝灰質泥岩層へ漸移する.凝灰質泥岩層は,見かけ上,12~60cm程度の層厚をもつ.露頭北部の同ユニットは,南方向への滑動により布団を畳むように折り曲げられ,褶曲軸面付近に形成される低角逆断層によって上盤側が下流へ変位して,8層全体ないしその一部,ならびに逆転した一部が繰り返すことによって層厚を増している.
4.稲村水中地すべりの滑動・変形モデル
以上の観察結果を合理的に説明する滑動・変形モデルとして,以下のような過程を検討中である.
[a] F(or G)堆積後の早い時期にD基底の泥岩層中にすべり面が形成され,ある場所から上流側が南へ傾斜する当時の斜面下方へ滑動を開始する,
[b] 滑動開始当初,D互層は地すべり先端部にランプ背斜を形成して互層の一部が下流側の滑動しないDに乗り上げて滑動による短縮を解消する,
[c] 短縮が進行するとランプ背斜は横臥褶曲に成長し,それでも短縮量を補償しきれなくなるとすべり面が上位へ分岐し低角逆断層となってさらに乗り上げていく,
[d] さらに滑動が継続し短縮量が増えると,新たなランプ背斜・横臥褶曲が順次上流側に形成され(オーバーステップ状),こうした変形が累積することでDの層厚が不均質となる,
[e] Dの層厚が不均質化することでE以上の上載圧力に不均衡が生じて低比重のDとより高比重の上位層との境界面が不安定になり,互層上部の一部が変形しながらEの凝灰岩中に取り込まれていく,
[f] Eと上位のFの境界面も不安定になるが,両ユニット間の比重差は大きくないため,大規模な取り込みには発達しない.
謝辞:英修興産有限会社,立山黒部ジオパーク協会の諸氏,有限会社きんた,鉄建建設株式会社に心より感謝する.なお,当該調査には日本学術振興会科学研究費基盤研究(B)(一般)(19H02397)の一部を使用した.
文献:[1]荒戸ほか, 2023, 堆積学会要旨, 9-10, [2]荒戸ほか, 2023, 地質学会要旨, T-6-P20, [3]金子ほか, 2023, 地質学会要旨, T-3-O-4, [4]荒戸ほか, 2024, 地質雑, 130, 167-168, [5]竹内, 2021,地質雑, 127, 145-164, [6]金子, 2001, 地質雑, 107, 729-748.
著者らは,海底地すべりの堆積学的な理解と運動学的なモデルの構築を目的に研究を進めている[1など].その一環として,富山県上市町の稲村露頭(南北約80 m,東西約70 m,最大比高約30 m)に分布する下部中新統稲村水中地すべり堆積物の内部変形構造の調査を実施している[1~4].その結果,滑動および変形様式が明らかになってきたので概要を報告する.
2.手法
一般的な岩相層序ならびに堆積相解析に加え,詳細な堆積構造および変形構造を観察するため一部露頭面の研磨を行なった[1].その結果に基づき,滑動体を構成する砂岩層全8層(鍵層D1~D8)を区別し,露頭全体にわたって追跡した[2].鍵層砂岩の追跡は,肉眼観察地点を起点としてドローン画像から作成した三次元モデル上で行った[4].露頭高所については,高所作業車を用いた近接肉眼観察を併用した[1, 2].
3.結果(図参照)
(1) 層序・構造:下部中新統折戸凝灰岩部層は,前~中期中新世の日本海拡大期に富山県から能登半島にかけて形成された北東-南西方向のリフト帯[5など]南東縁に堆積した複数の単源火山砕屑岩類と関連堆積物からなる福平層の一部層であり,調査地では堆積後の後背地の隆起によって北~北西に約10~25度傾斜している[6].
(2) 岩相・ユニット区分:稲村露頭の折戸凝灰岩部層は,岩相の特徴等に基づき下位からA~Gの7ユニットに区分される.
A:塊状無層理の凝灰岩・凝灰角礫岩層からなる.
B, C:プロデルタ成の凝灰質砂岩泥岩互層からなり,Aを覆う.砂岩・泥岩とも数cm~数10cmの層厚を有し,堆積時のslide等による変形は受けていない.
D:Cを覆い,B,Cとほぼ同等の岩相を有する.ユニット内の逆断層より北側は激しい変形を受けているが,南側ではほとんど変形を受けておらず下位ユニットと調和的な走向傾斜を有する.
E:凝灰岩,凝灰角礫岩の基質に,D上部の砂岩泥岩互層,泥岩などが変形してスランプ状,もしくはブロック状に取り込まれている.D由来のブロックの量および変形度合いは場所によって大きく異なる.
F, G:凝灰岩,凝灰角礫岩からなり,Eを覆う.場所によってE上部の堆積物がF基底面を突き破ってF内に取り込まれている場合がある.
(3) ユニットDの変形様式:Dの互層は,堆積学的特徴の異なるD1~D8の8層の凝灰質砂岩鍵層と挟在する凝灰質泥岩層からなる.砂岩層の層厚はそれぞれ12~52cm程度で,基底部の極粗粒から細粒へ上方細粒化し凝灰質泥岩層へ漸移する.凝灰質泥岩層は,見かけ上,12~60cm程度の層厚をもつ.露頭北部の同ユニットは,南方向への滑動により布団を畳むように折り曲げられ,褶曲軸面付近に形成される低角逆断層によって上盤側が下流へ変位して,8層全体ないしその一部,ならびに逆転した一部が繰り返すことによって層厚を増している.
4.稲村水中地すべりの滑動・変形モデル
以上の観察結果を合理的に説明する滑動・変形モデルとして,以下のような過程を検討中である.
[a] F(or G)堆積後の早い時期にD基底の泥岩層中にすべり面が形成され,ある場所から上流側が南へ傾斜する当時の斜面下方へ滑動を開始する,
[b] 滑動開始当初,D互層は地すべり先端部にランプ背斜を形成して互層の一部が下流側の滑動しないDに乗り上げて滑動による短縮を解消する,
[c] 短縮が進行するとランプ背斜は横臥褶曲に成長し,それでも短縮量を補償しきれなくなるとすべり面が上位へ分岐し低角逆断層となってさらに乗り上げていく,
[d] さらに滑動が継続し短縮量が増えると,新たなランプ背斜・横臥褶曲が順次上流側に形成され(オーバーステップ状),こうした変形が累積することでDの層厚が不均質となる,
[e] Dの層厚が不均質化することでE以上の上載圧力に不均衡が生じて低比重のDとより高比重の上位層との境界面が不安定になり,互層上部の一部が変形しながらEの凝灰岩中に取り込まれていく,
[f] Eと上位のFの境界面も不安定になるが,両ユニット間の比重差は大きくないため,大規模な取り込みには発達しない.
謝辞:英修興産有限会社,立山黒部ジオパーク協会の諸氏,有限会社きんた,鉄建建設株式会社に心より感謝する.なお,当該調査には日本学術振興会科学研究費基盤研究(B)(一般)(19H02397)の一部を使用した.
文献:[1]荒戸ほか, 2023, 堆積学会要旨, 9-10, [2]荒戸ほか, 2023, 地質学会要旨, T-6-P20, [3]金子ほか, 2023, 地質学会要旨, T-3-O-4, [4]荒戸ほか, 2024, 地質雑, 130, 167-168, [5]竹内, 2021,地質雑, 127, 145-164, [6]金子, 2001, 地質雑, 107, 729-748.
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