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[T13-O-8]Reconstruction of paleoenvironmental changes by biomarker analysis of sediments in the Miocene Abetsu and Nibutani formations distributed in Mukawa area, Hokkaido, Japan

Hiroyasu Asahi1,2, *Ken Sawada1 (1. Department of Earth and Planetary Sciences, Faculty of Science, Hokkaido University, 2. Shimokita Geopark Promotion Council)
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Keywords:

Paleoenvironment,Turbidite,Miocene,Hidaka sedimentary basin,Biomarker

1.はじめに
 北海道日高地域に分布する日高堆積盆は、北海道中央部に位置した狭長なフォアランド堆積盆の南部に位置し、中期~後期中新世にかけて広がる北西太平洋古北海道沖において急速に堆積物に充填され、トラフ充填型タービダイトからファンデルタ堆積層へと進行する (Kawakami et al., 2013; 加瀬ほか, 2018)。このフォアランド堆積盆では洪水流をはじめとする陸域からの物質輸送が大きく寄与したことが示唆され、北西に隣接する石狩堆積盆では陸上植物片が濃集するタービダイトが見られるなどの証拠がある (Furota et al., 2021; Asahi and Sawada, 2024)。また、日高地域の中期~後期中新世において放散虫や珪藻などの微化石による生層序年代が推定されている(新澤ほか, 2009; 本山・川村, 2009)。本研究では中期~後期中新世の日高堆積盆に埋積した堆積層を対象に地質調査と有機地球化学分析を行い、堆積盆の堆積システムと古環境の変遷を復元し、それらの関連性を検討した。
2.試料と方法
 日高堆積盆の中期-後期中新世の堆積層として下位からアベツ層(粗粒砂泥互層)、二風谷層(細粒砂泥互層)、荷菜層(細粒砂泥互層、礫層)が露出する。これらの堆積層はこれまで放散虫や珪藻群集により年代対比が行われており、堆積年代は放散虫や珪藻によってアベツ層は15.3~12.5Ma、二風谷層は12.5~9.7Ma、荷菜層は9.7~3.5Maと推定されている(新澤ほか, 2009; 本山・川村, 2009)。本研究ではアベツ・二風谷層の露出するむかわ穂別地域のホロカンベ沢、二風谷上部~荷菜層下部の分布する五号沢川にて地質調査と試料採取を行った。有機物分析は堆積物から有機溶媒を用いて有機成分を抽出し、GC-MS、GC-FIDによって測定・解析を行った。
3.結果と考察
 二風谷層のほとんどの試料において、プリスタン/フィタン(Pr/Ph)比が1.0以下と著しく低いことがわかった。これは本邦の新第三系堆積層において最も低い値を示しているといえる。これらのPr/Ph比が単純に酸化還元条件を示しているとみなすならば、極端な還元状態、つまり無酸素的な底層環境が継続的に広がっていたと解釈される。しかし、日高堆積盆において極端な無酸素環境が発達する環境要因が特定できない。あるいは、フィタンが特異的に生成されるような堆積条件、例えば、フィタンはメタン細菌由来分子から生成されることが知られているので、メタン菌が底層において活発に分布しているような環境であった可能性なども指摘できる。陸源バイオマーカーについては、タービダイト試料から数種類のスギ科のバイオマーカーが検出された。スギ科は温帯域の冬季降水量が多い地域に群生するため、当時の日高地域でも同様の環境が拡がっていた可能性がある。高い冬季降水量は融雪期の河川水量や融雪洪水の増加の要因となるため、温帯かつ冬季降水量の多い気候が有機物を海洋底へ運搬する堆積システムの条件の可能性がある。
 アベツ層に見られるタービダイトでは、陸源バイオマーカーとしてジテルペノイド (裸子植物成分)とトリテルペノイド (被子植物成分)が含まれる。トリテルペノイドは特に陸上植物片の葉理が発達するユニットでは最大値を示しており、アベツ層を形成した混濁流には被子植物成分が高濃度で含まれたことを示唆する。このトリテルペノイドは山間部の森林から洪水などにより直接運搬されたことが考えられる。二風谷層は細粒砂泥互層と珪質泥岩で構成され、珪質泥岩は珪藻生産の増大を示すと考えられ、堆積盆が遠洋的な環境へ変化したことが示唆される。陸上植物成分のうち被子植物成分が著しく減少する。荷菜層では細粒砂泥互層から礫岩層を主体とする堆積相へと変化することから、比較的遠洋的な環境から活発な埋積が起こる浅海的な環境へと変化したと考えられる。また粗粒タービダイト層ではアベツ層と同様に、植物片の葉理が発達するユニットが確認され、陸上から直接的に陸上植物が運搬されたことを示し、日高堆積盆において陸域からの物質輸送が中期~後期中新世にかけて断続的に活発化していたことが推測される。
文献
Asahi, H., Sawada, K. (2024) Org. Geochem., 188, 104671.
Furota, S. et al. (2021) Int. J. Coal Geol., 233, 103643.
加瀬善洋ほか (2018) 地質学雑誌, 124, 627-642.
Kawakami, G. (2013) InTech, 131-152.
本山功, 川村好毅 (2009) むかわ町立穂別博物館研究報告, 24, 1-18.
新澤みどりほか(2009) 大阪微化石研究会誌, 14, 117-141.

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