Presentation Information
[T10-P-12]Deformation structure of limestone and thermal structure in Nagasaka area, western part of the South Kitakami Belt
*Hiroaki YOKOYAMA1, Jun MUTO1 (1. Tohoku Univ.)
Keywords:
Deformed limestone,EBSD,Deformation mechanism,CM Raman thermometry,South Kitakami Belt
南部北上帯は日本列島における古生層の分布域のひとつであり、古くから層序や古生物に関する研究がなされてきた。南部北上帯の古生層は、白亜紀にユーラシア大陸縁辺において花崗岩類の貫入を受け、その熱の影響と当時の圧縮応力場により、泥質岩にはスレート劈開が発達する(石井, 1985; Kanagawa, 1986)。一方で、石灰岩はOho(1982)によって変形組織が大まかに記載され、泥質岩のスレート劈開発達に伴って変形したと考えられている。しかしながら、それ以降石灰岩の変形については一切研究が行われておらず、詳細な変形組織や変形機構については明らかになっていない。そのため、本研究では南部北上帯の石灰岩の変形の産状を明らかにするために、南部北上帯の西縁にあたる長坂地域(白亜紀花崗岩類千厩岩体西方)の石灰岩に対して、偏光顕微鏡下での観察および電子線後方散乱回折(EBSD)による変形微細構造解析を行った。さらに変形温度の推定のため、同地域の泥質岩に含まれる炭質物のラマン分光分析を行った。
調査地域の石灰岩は、北北東-南南西走向で、高角に西傾斜する面構造を持つ。方解石の伸長方向に特徴づけられる線構造は10-20˚北落ちである。偏光顕微鏡観察では、変形組織に応じて大まかに3つのタイプに分けられた。1つ目は千厩岩体近傍で方解石は完全に再結晶しており、粒径400µm-2mmのポリゴナルな粒子で構成されているGタイプ。2つ目は方解石は完全に再結晶しているものの、それらが伸長して顕著な形態定向配列を示し、粒径20-200µmのEタイプ。3つ目は細粒な方解石の基質(粒径10-20µm)の中に数百µmの方解石ポーフィロクラストとして存在し、基質の流動に伴いポーフィロクラストが回転しているFタイプである。これらは、千厩岩体からの距離が近い順にGタイプ、Eタイプ、Fタイプと遷移的に変化する。GタイプとEタイプは同一試料内で粒径は均一であり、Fタイプにおいても細粒な基質部では粒径は均一である。3つのタイプではいずれも全体的に動的再結晶による細粒化は見られない。また、EタイプとFタイプの試料に対してEBSD分析を行ったところ、EタイプではZ軸方向にc軸の集中を示し、結晶方位の集中度を示すM-indexは0.05-0.1であった。Fタイプは、完全にランダムな結晶方位を示すものからZ軸方向にc軸の弱い集中を示すものがあり、M-indexは0-0.05であった。したがって、結晶方位が集中しているEタイプでは、方解石粒子の伸長は転位すべりによる変形であることが示唆される。一方、Fタイプでは結晶方位がランダムに近いことから、転位すべりの寄与は小さく、拡散クリープで変形した可能性が高い。
炭質物のラマン分光分析による被熱温度推定は、D4バンド(波数1245cm-1, Kouketsu et al., 2014)が確認できないものは330-650˚Cで有効なAoya et al. (2010)の温度計、D4バンドが確認できるものは150-400˚Cで有効なKoutketu et al. (2014)の温度計を用いた。千厩岩体から最も近い50mの地点では620˚Cの温度が得られ、千厩岩体から離れるにしたがって指数関数的に温度は低下する傾向がみられる。さらに、GタイプとEタイプの境界は450˚C前後、EタイプとFタイプの境界は350˚C前後であることがわかった。
これらをふまえて千厩岩体の貫入と古生層中の石灰岩の変形について考察すると、石灰岩の変形は千厩岩体の貫入による熱の影響を受け、以下のように変形したと考えられる。まず、千厩岩体の貫入による熱の影響で再結晶が起きた。この時、千厩岩体に近いほど温度が高く、粒子は大きくなった。それに引き続き、スレート劈開を形成した応力場により変形が起こるが、ある程度粒成長したものは転位すべりにより伸長してEタイプが形成された。千厩岩体から離れた温度の低い領域では十分な粒成長には至らず、細粒のまま拡散クリープによってFタイプが形成された。また、千厩岩体近傍のGタイプで伸長した組織が見られないのは、スレート劈開の発達が終了した後も引き続き粒成長できる温度環境であったためと考えられる。
引用文献
石井, 1985, 地質雑, 91, 309-321.
Kanagawa, 1986, J. Geol. Soc. Japan, 92, 349-370.
Oho, 1982, J. Fac. Sci. Univ. Tokyo, 20, 345-381.
Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33-50.
Aoya et al., 2010, J. Metamor. Geol., 28, 895-914.
調査地域の石灰岩は、北北東-南南西走向で、高角に西傾斜する面構造を持つ。方解石の伸長方向に特徴づけられる線構造は10-20˚北落ちである。偏光顕微鏡観察では、変形組織に応じて大まかに3つのタイプに分けられた。1つ目は千厩岩体近傍で方解石は完全に再結晶しており、粒径400µm-2mmのポリゴナルな粒子で構成されているGタイプ。2つ目は方解石は完全に再結晶しているものの、それらが伸長して顕著な形態定向配列を示し、粒径20-200µmのEタイプ。3つ目は細粒な方解石の基質(粒径10-20µm)の中に数百µmの方解石ポーフィロクラストとして存在し、基質の流動に伴いポーフィロクラストが回転しているFタイプである。これらは、千厩岩体からの距離が近い順にGタイプ、Eタイプ、Fタイプと遷移的に変化する。GタイプとEタイプは同一試料内で粒径は均一であり、Fタイプにおいても細粒な基質部では粒径は均一である。3つのタイプではいずれも全体的に動的再結晶による細粒化は見られない。また、EタイプとFタイプの試料に対してEBSD分析を行ったところ、EタイプではZ軸方向にc軸の集中を示し、結晶方位の集中度を示すM-indexは0.05-0.1であった。Fタイプは、完全にランダムな結晶方位を示すものからZ軸方向にc軸の弱い集中を示すものがあり、M-indexは0-0.05であった。したがって、結晶方位が集中しているEタイプでは、方解石粒子の伸長は転位すべりによる変形であることが示唆される。一方、Fタイプでは結晶方位がランダムに近いことから、転位すべりの寄与は小さく、拡散クリープで変形した可能性が高い。
炭質物のラマン分光分析による被熱温度推定は、D4バンド(波数1245cm-1, Kouketsu et al., 2014)が確認できないものは330-650˚Cで有効なAoya et al. (2010)の温度計、D4バンドが確認できるものは150-400˚Cで有効なKoutketu et al. (2014)の温度計を用いた。千厩岩体から最も近い50mの地点では620˚Cの温度が得られ、千厩岩体から離れるにしたがって指数関数的に温度は低下する傾向がみられる。さらに、GタイプとEタイプの境界は450˚C前後、EタイプとFタイプの境界は350˚C前後であることがわかった。
これらをふまえて千厩岩体の貫入と古生層中の石灰岩の変形について考察すると、石灰岩の変形は千厩岩体の貫入による熱の影響を受け、以下のように変形したと考えられる。まず、千厩岩体の貫入による熱の影響で再結晶が起きた。この時、千厩岩体に近いほど温度が高く、粒子は大きくなった。それに引き続き、スレート劈開を形成した応力場により変形が起こるが、ある程度粒成長したものは転位すべりにより伸長してEタイプが形成された。千厩岩体から離れた温度の低い領域では十分な粒成長には至らず、細粒のまま拡散クリープによってFタイプが形成された。また、千厩岩体近傍のGタイプで伸長した組織が見られないのは、スレート劈開の発達が終了した後も引き続き粒成長できる温度環境であったためと考えられる。
引用文献
石井, 1985, 地質雑, 91, 309-321.
Kanagawa, 1986, J. Geol. Soc. Japan, 92, 349-370.
Oho, 1982, J. Fac. Sci. Univ. Tokyo, 20, 345-381.
Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33-50.
Aoya et al., 2010, J. Metamor. Geol., 28, 895-914.
Comment
To browse or post comments, you must log in.Log in