Presentation Information
[T13-P-1]The characteristics and origin of the banded clay sediments in the upper Pleistocene-Holocene sediment cores in Lake Suwa, central Japan
*Nozomi Hatano1, Ryosuke Fukuchi2, Ken Sawada2,3, Ritsuho Kawano4, Kohki Yoshida5 (1. Nagano Environmental Conservation Research Institute, 2. Graduate School of Science, Hokkaido University, 3. Faculty of Science, Hokkaido University, 4. Graduate School of Science and Technology, Shinshu University, 5. Faculty of Science, Shinshu University)
Keywords:
banded sediments,hypoxia,inland/mountain lake,XRF core scanner,climate change
はじめに:諏訪湖は,中部山岳域に位置する高標高湖であり,その集水域の土壌や湖内の環境は,更新世末から完新世の気候変動に対して敏感に反応してきた(福澤ほか, 2003; Hatano et al., 2023, 2024).諏訪湖沿岸で掘削された堆積物コア(更新統上部~完新統)は,縞状粘土層を断続的に挟むことで知られる(Hatano et al., 2023, 2024).現在,諏訪湖では,冬季の結氷による表層水の密度変化や風によって湖水の鉛直循環が生じており(豊田ほか, 2010),湖底生物活動が年間を通じて活発であることから,年縞のような縞状構造は残りにくいはずである.諏訪湖の堆積物コアに認められる縞状粘土層は,現在とは異なる湖水条件下で保存されたことが想定される.本発表では,鏡下観察,連続化学組成分析,XRF分析,バイオマーカー分析に基づき縞状粘土層の記載を行い,その成因を考察した.
コアの概要:諏訪湖の堆積物コア(ST2020コア,SK2021コア)は,それぞれ掘削長30.0 mであり,諏訪湖の南西岸と南東岸において掘削された.粒度,堆積構造,構成物,古土壌,全有機炭素/全窒素比に基づくと,両コアの堆積ユニットは,下位より礫層,砂層,砂泥互層,泥層,亜炭層からなるユニットI(河川・氾濫原堆積物,約27.2–13.3 cal kyr BP),珪藻質泥層と炭質泥層からなるユニットII(湖沼性堆積物,約13.3–4.2 cal kyr BP),礫層,砂層,炭質泥層からなり上方粗粒化サクセッションに特徴づけられるユニットIII(デルタ堆積物,約4.2 cal kyr BP–)に区分される(Hatano et al., 2023, 2024).これらのコアは,木片の放射性炭素年代から年代―深度モデルが構築されており,ユニットIで0.7–1.8 m/kyr,ユニットIIで0.5–1.2 m/kyr,ユニットIIIで2.0 m/kyrの堆積速度を示す.
結果:ユニットII(湖沼性堆積物)は,主に無層理の塊状泥層からなるが,縞状粘土層を断続的に挟む.特に,深度17.87–17.35 cm(約12.7–11.8 cal kyr BP)には,連続して厚い縞状粘土が残存する.縞状粘土層と塊状泥層とでは,粒度に明瞭な違いはない.縞模様は,それぞれ厚さ1–3 mmの暗色・オリーブ灰色葉理,灰色葉理,黄褐色葉理からなり,その重なりに明瞭な規則性はない.鏡下観察とXRFコアスキャナー(ITRAX)による連続化学分析によると,各葉理は,シデライト葉理(Fe, S, P, Cu, Pbに富む),珪藻葉理(Si, Srに富む),フランボイダルパイライト・砕屑物・有機物・ペレット葉理(S, Ca, Al, Laに富む)に相当する.シデライトは自形結晶として産し,堆積後の初期続成過程で沈積した可能性が高い.全岩でのXRF分析とCHN元素分析に基づくと,縞状粘土層では,Al2O3/TiO2, P2O5/TiO2, Fe2O3/TiO2, TN/TOCの増加が認められ,土砂供給と湖内の生物生産性の増加が示唆される.バイオマーカーの酸化還元指標であるステロイドのスタノール/ステロイド比(Ste/Sta)は,縞状粘土層において顕著な増加を示す.
議論:ユニットII(湖沼性堆積物)を構成する塊状泥層と縞状粘土層とでは,明瞭な粒度の違いは認められず,堆積速度の増加が縞模様の残存に寄与したとは考えにくい.縞状粘土層においてSte/Sta比の増加が認められることから,湖底の貧酸素化が湖底生物による表層堆積物の擾乱を抑制し,縞模様の残存に寄与した可能性は高い.縞状粘土層は,珪藻遺骸からなる葉理や砕屑物からなる葉理を含み,湖表層の生物活動や湖内流入物質の年々もしくは季節変化によって形成されたと考えられる.湖底貧酸素化の要因として,流域からの土砂(土壌栄養塩類)供給による富栄養化と生物生産の増加による湖底の酸素消費のほかに,冬季の結氷の欠如,季節風による湖水の動揺の減少などが考えられ,最終氷期末から完新世初期の気候変動が諏訪湖の鉛直循環に寄与した可能性がある.
文献:福澤仁之ほか, 2003, 第四紀研究 42, 165–180. Hatano, N. et al., 2023, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol. 614, 111439. Hatano, N. et al., 2024, Geomorphology 455, 109194. 豊田政史ほか, 2010, 陸水学雑誌 71, 45–52.
コアの概要:諏訪湖の堆積物コア(ST2020コア,SK2021コア)は,それぞれ掘削長30.0 mであり,諏訪湖の南西岸と南東岸において掘削された.粒度,堆積構造,構成物,古土壌,全有機炭素/全窒素比に基づくと,両コアの堆積ユニットは,下位より礫層,砂層,砂泥互層,泥層,亜炭層からなるユニットI(河川・氾濫原堆積物,約27.2–13.3 cal kyr BP),珪藻質泥層と炭質泥層からなるユニットII(湖沼性堆積物,約13.3–4.2 cal kyr BP),礫層,砂層,炭質泥層からなり上方粗粒化サクセッションに特徴づけられるユニットIII(デルタ堆積物,約4.2 cal kyr BP–)に区分される(Hatano et al., 2023, 2024).これらのコアは,木片の放射性炭素年代から年代―深度モデルが構築されており,ユニットIで0.7–1.8 m/kyr,ユニットIIで0.5–1.2 m/kyr,ユニットIIIで2.0 m/kyrの堆積速度を示す.
結果:ユニットII(湖沼性堆積物)は,主に無層理の塊状泥層からなるが,縞状粘土層を断続的に挟む.特に,深度17.87–17.35 cm(約12.7–11.8 cal kyr BP)には,連続して厚い縞状粘土が残存する.縞状粘土層と塊状泥層とでは,粒度に明瞭な違いはない.縞模様は,それぞれ厚さ1–3 mmの暗色・オリーブ灰色葉理,灰色葉理,黄褐色葉理からなり,その重なりに明瞭な規則性はない.鏡下観察とXRFコアスキャナー(ITRAX)による連続化学分析によると,各葉理は,シデライト葉理(Fe, S, P, Cu, Pbに富む),珪藻葉理(Si, Srに富む),フランボイダルパイライト・砕屑物・有機物・ペレット葉理(S, Ca, Al, Laに富む)に相当する.シデライトは自形結晶として産し,堆積後の初期続成過程で沈積した可能性が高い.全岩でのXRF分析とCHN元素分析に基づくと,縞状粘土層では,Al2O3/TiO2, P2O5/TiO2, Fe2O3/TiO2, TN/TOCの増加が認められ,土砂供給と湖内の生物生産性の増加が示唆される.バイオマーカーの酸化還元指標であるステロイドのスタノール/ステロイド比(Ste/Sta)は,縞状粘土層において顕著な増加を示す.
議論:ユニットII(湖沼性堆積物)を構成する塊状泥層と縞状粘土層とでは,明瞭な粒度の違いは認められず,堆積速度の増加が縞模様の残存に寄与したとは考えにくい.縞状粘土層においてSte/Sta比の増加が認められることから,湖底の貧酸素化が湖底生物による表層堆積物の擾乱を抑制し,縞模様の残存に寄与した可能性は高い.縞状粘土層は,珪藻遺骸からなる葉理や砕屑物からなる葉理を含み,湖表層の生物活動や湖内流入物質の年々もしくは季節変化によって形成されたと考えられる.湖底貧酸素化の要因として,流域からの土砂(土壌栄養塩類)供給による富栄養化と生物生産の増加による湖底の酸素消費のほかに,冬季の結氷の欠如,季節風による湖水の動揺の減少などが考えられ,最終氷期末から完新世初期の気候変動が諏訪湖の鉛直循環に寄与した可能性がある.
文献:福澤仁之ほか, 2003, 第四紀研究 42, 165–180. Hatano, N. et al., 2023, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol. 614, 111439. Hatano, N. et al., 2024, Geomorphology 455, 109194. 豊田政史ほか, 2010, 陸水学雑誌 71, 45–52.
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