Presentation Information
[T13-P-6]Are coastal boulders at Cape Chihiro, Tosashimizu City, Kochi Prefecture, tsunami boulders?
*Satoru IMAI1 (1. Shimane Nature Museum of Mt. Sanbe)
【ハイライト講演】本ポスター発表では,高知県土佐清水市の海岸に見られる巨礫群の離水時期を生物遺骸から推定している.さらに,タフォニの深さからその形成時間を推定することで,巨礫群の離水現象が津波による転動によって起きたことを論証し,南海トラフ歴史地震との関連性を示している.南海トラフの地震履歴を地質記録から明らかにする新たな切り口となるかもしれない.(ハイライト講演とは...)
Keywords:
tsunami boulders,tsunami Deposits,historical earhtquakes,Sessile Organisms,radiocarbon dating
四国南西部に位置する高知県土佐清水市には,南海トラフ地震に関する記録が数多く残されており,地殻変動や津波浸水域について議論されている.しかし17世紀以前の歴史資料は少なく,また津波堆積物についても嶋田ほか(2021)が15世紀の年代を示す砂質津波堆積物を報告しているのみである.ところで,津波により運搬された直径1 m以上の巨礫を一般に津波石という(後藤,2012).日本における津波石の研究事例は琉球海溝沿いのサンゴ礁地域に集中しており,その他の地域では少ない(後藤,2017).しかし,認定基準の検討は必要なものの,巨礫の供給源がある沿岸地域には未知の津波石が存在する可能性が指摘されている(後藤,2012).そうした津波石を調査することで,砂質津波堆積物の調査適地が少ない地域における過去の地震津波情報の取得が期待できる.このような背景のもと,本研究では土佐清水市千尋岬に見られる巨礫群について,それらが津波石である可能性を検討した.
千尋岬の海岸には,中新統三崎層群の砂岩泥岩互層および厚層砂岩からなる海食崖と,離水および現世の波食棚が発達する.波食棚上には巨礫が点在しており,本研究では千尋岬南西岸に分布する3点について,付着する海生生物遺骸の放射性炭素年代測定を実施した.また,巨礫近傍の波食棚上に付着する生物遺骸についても年代を測定した.なお年代測定は(株)パレオ・ラボに依頼した.
調査対象の巨礫は,標高約0.8–1.6 mの波食棚上に位置する.それらの直径は約3.0–5.5 m,推定重量は約15–40 tで,形状はいずれも角ばっている.また巨礫の平坦面の一つにはヤッコカンザシやヒラフジツボ類を主体とする海生生物の遺骸が付着する.付着生物遺骸は標高約1.8–3.6 mの範囲に分布し,その生息水深を考えると明らかに離水している.得られた付着生物遺骸すべての暦年代(2σ)の範囲は西暦775–1752年で,各巨礫から得られた最も新しい年代を最終的な離水年代と考えると,それぞれ西暦1102–1419年, 西暦1138年–1437年,西暦1437–1752年となる.
巨礫に付着する生物が離水する要因としては,巨礫の移動と地殻変動による相対的海水準変動とが考えられる.付着生物の生息環境を考慮すると,付着生物遺骸が見られる巨礫の平坦面はかつて波食棚に接しており,その間隙部に付着生物が生息していたのが,巨礫が転動したことで離水したと解釈できる(北村ほか, 2014).しかし,標高1.1–1.5 mの波食棚上の付着生物遺骸から西暦1316–1620年の年代が得られたため,巨礫の離水は地盤隆起によるもので,その後に巨礫が転動した可能性もある.この問題の検証のため,付着生物遺骸が見られる平坦面に発達するタフォニの深さを計測し,その形成に要する時間を試算した.平坦面は,波食棚に接していた時期は乾燥しにくく塩類風化の影響は少なかったが,巨礫の転により直射日光を受ける潮上帯に位置するようになると,塩類風化によりタフォニが形成され始めたと考えられる.すなわち巨礫が転動後,現在まで姿勢を保っていたとすると,タフォニと付着生物遺骸の示す年代は一致する.この試算には,千尋岬と岩石やその露出環境が類似する和歌山県白浜のデータを用いた(Sunamura and Aoki, 2011).その結果,平坦面のタフォニの形成期間は800–1300年程度という値が得られた.よって,三崎層群の岩石物性値を用いた再検討の必要はあるものの,巨礫の転動は付着生物の死滅と同時期と考えられる.
海岸巨礫を転動させうる営力としては,台風などにともなう高波と津波とが考えられる.ドローンで撮影した2022年と2024年の空中写真を比較したところ,直径2 m以下,推定重量1 t以下の巨礫が複数移動していた.これらは高波によって移動したと考えられる.一方,国土地理院の空中写真など過去の写真資料と,2024年の空中写真を比較した結果,本研究の調査対象を含む直径2 m以上の巨礫は少なくとも過去50年間ほとんど移動しておらず,それらは台風時の高波では移動しない可能性が高い.
以上の結果から,本研究対象の巨礫は津波石だと考えられる.付着生物遺骸の年代をそのまま適用すれば3点のうち2点は正平地震(1361)にともなう津波により転動したこととなる.もう1点の年代範囲には,明応地震(1498),慶長地震(1605),宝永地震(1707)が含まれており,歴史地震との対比は今後の課題である.
引用
北村ほか, 2014, 第四紀研究, 53, 259–264. 後藤, 2012, 堆積学研究, 71, 129–139. 後藤, 2017, 地質学雑誌, 123, 843–855. 嶋田ほか, 2021, Diatom, 37, 8–21. Sunamura & Aoki, 2011, Earth Surf. Process. Landforms, 36, 1624–1631.
千尋岬の海岸には,中新統三崎層群の砂岩泥岩互層および厚層砂岩からなる海食崖と,離水および現世の波食棚が発達する.波食棚上には巨礫が点在しており,本研究では千尋岬南西岸に分布する3点について,付着する海生生物遺骸の放射性炭素年代測定を実施した.また,巨礫近傍の波食棚上に付着する生物遺骸についても年代を測定した.なお年代測定は(株)パレオ・ラボに依頼した.
調査対象の巨礫は,標高約0.8–1.6 mの波食棚上に位置する.それらの直径は約3.0–5.5 m,推定重量は約15–40 tで,形状はいずれも角ばっている.また巨礫の平坦面の一つにはヤッコカンザシやヒラフジツボ類を主体とする海生生物の遺骸が付着する.付着生物遺骸は標高約1.8–3.6 mの範囲に分布し,その生息水深を考えると明らかに離水している.得られた付着生物遺骸すべての暦年代(2σ)の範囲は西暦775–1752年で,各巨礫から得られた最も新しい年代を最終的な離水年代と考えると,それぞれ西暦1102–1419年, 西暦1138年–1437年,西暦1437–1752年となる.
巨礫に付着する生物が離水する要因としては,巨礫の移動と地殻変動による相対的海水準変動とが考えられる.付着生物の生息環境を考慮すると,付着生物遺骸が見られる巨礫の平坦面はかつて波食棚に接しており,その間隙部に付着生物が生息していたのが,巨礫が転動したことで離水したと解釈できる(北村ほか, 2014).しかし,標高1.1–1.5 mの波食棚上の付着生物遺骸から西暦1316–1620年の年代が得られたため,巨礫の離水は地盤隆起によるもので,その後に巨礫が転動した可能性もある.この問題の検証のため,付着生物遺骸が見られる平坦面に発達するタフォニの深さを計測し,その形成に要する時間を試算した.平坦面は,波食棚に接していた時期は乾燥しにくく塩類風化の影響は少なかったが,巨礫の転により直射日光を受ける潮上帯に位置するようになると,塩類風化によりタフォニが形成され始めたと考えられる.すなわち巨礫が転動後,現在まで姿勢を保っていたとすると,タフォニと付着生物遺骸の示す年代は一致する.この試算には,千尋岬と岩石やその露出環境が類似する和歌山県白浜のデータを用いた(Sunamura and Aoki, 2011).その結果,平坦面のタフォニの形成期間は800–1300年程度という値が得られた.よって,三崎層群の岩石物性値を用いた再検討の必要はあるものの,巨礫の転動は付着生物の死滅と同時期と考えられる.
海岸巨礫を転動させうる営力としては,台風などにともなう高波と津波とが考えられる.ドローンで撮影した2022年と2024年の空中写真を比較したところ,直径2 m以下,推定重量1 t以下の巨礫が複数移動していた.これらは高波によって移動したと考えられる.一方,国土地理院の空中写真など過去の写真資料と,2024年の空中写真を比較した結果,本研究の調査対象を含む直径2 m以上の巨礫は少なくとも過去50年間ほとんど移動しておらず,それらは台風時の高波では移動しない可能性が高い.
以上の結果から,本研究対象の巨礫は津波石だと考えられる.付着生物遺骸の年代をそのまま適用すれば3点のうち2点は正平地震(1361)にともなう津波により転動したこととなる.もう1点の年代範囲には,明応地震(1498),慶長地震(1605),宝永地震(1707)が含まれており,歴史地震との対比は今後の課題である.
引用
北村ほか, 2014, 第四紀研究, 53, 259–264. 後藤, 2012, 堆積学研究, 71, 129–139. 後藤, 2017, 地質学雑誌, 123, 843–855. 嶋田ほか, 2021, Diatom, 37, 8–21. Sunamura & Aoki, 2011, Earth Surf. Process. Landforms, 36, 1624–1631.
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