Presentation Information
[G-P-10]Overseas outcrop survey and rock mineralogical research by high school students - What is high school student-likeness ? –
*Kazuya KAWAKATSU1 (1. Hyogo Prefectural Himejihigashi Senior High School)
【ハイライト講演】発表者の勤務校はSSH指定を受け,生徒19名と共にオーストラリア野外調査を試みた.Bingi Bingi Point付近で露頭観察,サンプリングを行ない,帰国後は大学の実験施設の協力を得て,解析を行っている.諸大会に応募すると,その評価は様々である.高校生の研究というのはいったいどういうことを目指せばいいのか,考えなくてはいけないところであろう.(ハイライト講演とは...)
Keywords:
Oscillatory zoned structure,subsolidus,magma residual,student-likeness
兵庫県立姫路東高等学校は、2020年に「世界を牽引する人材育成のための国際的な課題研究と科学倫理探究のロールモデル作成」を研究開発目標として、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定を受けた。研究開発の柱となっているのは「地球科学を中心にした国際的な活動への挑戦」と「科学部の国際的な活動への支援」である。科学部員は2024年6月現在で37名在籍しており、いくつかの研究班に分かれて精力的に活動している。
2023年12月に科学部は「オーストラリア野外調査」を11日間にわたって実施した。露頭は、ニューサウスウエールズ州南東部、シドニーから南へ約350kmのBingi Bingi Point複合深成岩体で、ジュラ紀に活動した不混和マグマによって、同質マグマの捕獲岩が一定方向に配列しており、フィールドトリップの露頭としてもよく知られている。しかし、マグマ残液の活動からみた岩石鉱物学的研究はなされておらず、高校生の研究対象地域として適していると判断した。参加生徒19名は、露頭近郊の町であるナルーマのアパートメントで自炊をしながら露頭調査を行った。岩石分布図を作成し、代表的な岩石試料を持ち帰って偏光顕微鏡で詳細に観察した。その結果、多くの閃緑岩の角閃石から、発達した波状累帯構造を発見した(図1)。角閃石の波状累帯構造は、西南日本内帯山陰帯の石英閃緑岩で初めて発見されたもので1)、サブソリダス条件下でマグマ残液による陽イオン置換が起こって形成されることが示されている。本校科学部の生徒は、角閃石の波状累帯構造の美しさに惹かれ、これまで日本各地の深成岩を調査して、角閃石から波状累帯構造を発見してきた。2023年度には、西南日本内帯山陽帯のマグマ分化過程末期の環境について、花崗閃緑岩の角閃石を指標にして明らかにする論文をまとめ、日本学生科学賞で中央審査会に進出するなどした2)。海外の深成岩の角閃石からの波状累帯構造の発見は、本研究が初めてとなった。京都大学理学部の協力を得て、操作の研修を受けた後、生徒3名が2日間かけて角閃石のEPMA分析を行い、露頭調査結果と合わせて検討を行った結果、後から上昇してきた不混和の同質マグマによるマグマ残液によって、サブソリダス条件下の酸化的環境で角閃石に波状累帯構造が形成されたことを明らかにした。この成果を論文にまとめ、2024年12月にワシントンD.C.で開催されるAmerican Geophysical Union(AGU)で発表する予定である。
近年SSH指定校の間で、研究成果の扱われ方が話題になっている。SSH指定校には先端的な科学研究の成果が求められ、そこで研究開発した実験や観察の手法、成果を広く公開することが求められている。本校科学部の生徒は、主体的に研究に取り組み、次から次へと現れる課題や疑問を解決するために、先行研究論文を読み、時には大学や企業研究者と連絡を取って助言を仰いだりしている。EPMA分析の際には、鉱物のEPMA分析を行うために京都大学理学部が行っているCOCOUS-Rに応募して合格し、自ら分析を行うという念の入れようであった。研究費についても、高校生研究の助成に応募して合格して得た資金をもとに活動を行っている。こうして完成させた研究論文には、不十分な点や抜け落ちている視点や情報が多くあることを生徒自身よく理解している。全国には、高校生段階においても非常に進んだ研究姿勢を持つ生徒が少なくない。高校生の研究成果が基になって、教科書が書き換えられたケースもある。しかし、このように進んだ内容の論文を高校生の研究論文コンテストに応募すると、審査員から「このような研究は高校生ではなしがたいものであり、大学研究者の指導と知恵のもとになし得たものと考えざるを得ない。もっと高校生らしい視点で自信をもって研究を行ってもらいたい」という評価が返ってくることが少なくない。内容の評価ではなく、推測に基づいて高校生の努力や能力を正当に評価しない講評は、その研究を行った高校生に失望を与える。もはやコンテストに応募するのはやめたという指導者もおり、その輪は広がっている。科学や技術で世界を牽引する若者を本気で育てるために、「高校生らしさ」とは何なのかを改めて問いたい。
1) Kawakatsu,K. and Yamaguchi,Y.(1987)Geochim.Cosmocim.Acta.Vol.51, 535-540.
2) 兵庫県立姫路東高等学校科学部(2023)日本地質学会第130 年学術大会(2023京都大会)要旨
2023年12月に科学部は「オーストラリア野外調査」を11日間にわたって実施した。露頭は、ニューサウスウエールズ州南東部、シドニーから南へ約350kmのBingi Bingi Point複合深成岩体で、ジュラ紀に活動した不混和マグマによって、同質マグマの捕獲岩が一定方向に配列しており、フィールドトリップの露頭としてもよく知られている。しかし、マグマ残液の活動からみた岩石鉱物学的研究はなされておらず、高校生の研究対象地域として適していると判断した。参加生徒19名は、露頭近郊の町であるナルーマのアパートメントで自炊をしながら露頭調査を行った。岩石分布図を作成し、代表的な岩石試料を持ち帰って偏光顕微鏡で詳細に観察した。その結果、多くの閃緑岩の角閃石から、発達した波状累帯構造を発見した(図1)。角閃石の波状累帯構造は、西南日本内帯山陰帯の石英閃緑岩で初めて発見されたもので1)、サブソリダス条件下でマグマ残液による陽イオン置換が起こって形成されることが示されている。本校科学部の生徒は、角閃石の波状累帯構造の美しさに惹かれ、これまで日本各地の深成岩を調査して、角閃石から波状累帯構造を発見してきた。2023年度には、西南日本内帯山陽帯のマグマ分化過程末期の環境について、花崗閃緑岩の角閃石を指標にして明らかにする論文をまとめ、日本学生科学賞で中央審査会に進出するなどした2)。海外の深成岩の角閃石からの波状累帯構造の発見は、本研究が初めてとなった。京都大学理学部の協力を得て、操作の研修を受けた後、生徒3名が2日間かけて角閃石のEPMA分析を行い、露頭調査結果と合わせて検討を行った結果、後から上昇してきた不混和の同質マグマによるマグマ残液によって、サブソリダス条件下の酸化的環境で角閃石に波状累帯構造が形成されたことを明らかにした。この成果を論文にまとめ、2024年12月にワシントンD.C.で開催されるAmerican Geophysical Union(AGU)で発表する予定である。
近年SSH指定校の間で、研究成果の扱われ方が話題になっている。SSH指定校には先端的な科学研究の成果が求められ、そこで研究開発した実験や観察の手法、成果を広く公開することが求められている。本校科学部の生徒は、主体的に研究に取り組み、次から次へと現れる課題や疑問を解決するために、先行研究論文を読み、時には大学や企業研究者と連絡を取って助言を仰いだりしている。EPMA分析の際には、鉱物のEPMA分析を行うために京都大学理学部が行っているCOCOUS-Rに応募して合格し、自ら分析を行うという念の入れようであった。研究費についても、高校生研究の助成に応募して合格して得た資金をもとに活動を行っている。こうして完成させた研究論文には、不十分な点や抜け落ちている視点や情報が多くあることを生徒自身よく理解している。全国には、高校生段階においても非常に進んだ研究姿勢を持つ生徒が少なくない。高校生の研究成果が基になって、教科書が書き換えられたケースもある。しかし、このように進んだ内容の論文を高校生の研究論文コンテストに応募すると、審査員から「このような研究は高校生ではなしがたいものであり、大学研究者の指導と知恵のもとになし得たものと考えざるを得ない。もっと高校生らしい視点で自信をもって研究を行ってもらいたい」という評価が返ってくることが少なくない。内容の評価ではなく、推測に基づいて高校生の努力や能力を正当に評価しない講評は、その研究を行った高校生に失望を与える。もはやコンテストに応募するのはやめたという指導者もおり、その輪は広がっている。科学や技術で世界を牽引する若者を本気で育てるために、「高校生らしさ」とは何なのかを改めて問いたい。
1) Kawakatsu,K. and Yamaguchi,Y.(1987)Geochim.Cosmocim.Acta.Vol.51, 535-540.
2) 兵庫県立姫路東高等学校科学部(2023)日本地質学会第130 年学術大会(2023京都大会)要旨
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