Presentation Information
[T18-O-1][Invited] The 2024 Noto-Hanto earthquake: from earthquake swarms to the M7.6 earthquake
*Yoshihiro Hiramatsu1 (1. Kanazawa University)
【ハイライト講演】令和6年能登半島地震(M7.6)および2020年12月頃から先行して発生した群発地震活動および非定常地殻変動について,幅広く実施された地震・地球物理学的観測および解析に基づき,地震の発生メカニズムや地震学的背景および深部流体の関与等を総括して報告する.(ハイライト講演とは...)
Keywords:
fluid,aseismic fault movement,multiple rupture of active faults,crustal movement,source process
能登半島北東部では、2020年12月頃から地震活動の活発化と局所的な非定常地殻変動が観測され、2023年にM6.5の地震、2024年1月1日にはM7.6(最大震度7)の令和6年能登半島地震が発生し、北陸三県と新潟県で大きな被害を生じた。本発表では、群発地震から令和6年能登半島地震(以下、M7.6の地震)に至る過程について報告する。
能登半島北東部の群発地震の活動域は4つのクラスター(発生順に、南、西、北、東)から成る。西、北、東のクラスターでは南東傾斜の複数の震源分布や拡散的な震源移動が確認された。南クラスターでは15 km以深での地震発生があり、間欠的かつ他クラスターより速い拡散速度の震源移動や円環状の震源分布が見られ、過去の火山活動の構造を使って大量の流体上昇が間欠的に発生し、その流体が南東傾斜の断層へ浸透し、地震活動が活発化したと考えられる(e.g. Amezawa et al., 2023)。地震波速度構造や比抵抗構造から南クラスターの15 km以深に流体の存在が示唆される(e.g. Okada et al., 2024; 吉村・他, 2023)。なお。南クラスター周辺の温泉水は、3He/4He比から深部起源流体の混入が示唆される(鹿児島・他, 2024)。
局所的な非定常地殻変動は、南クラスターと他のクラスター間の地震空白域に位置する南東傾斜の低角な断層での開口またはせん断開口(逆断層型スロースリップを伴う)が変動源であり、南クラスターの深部から上昇した流体が南東傾斜の断層帯に浸透し、断層帯の深部で非地震性の断層運動を起こし、それに伴う応力増加により断層帯浅部での群発地震活動の活発化が生じた(Nishimura et al., 2023)。地震活動や非定常地殻変動から、南クラスター深部からの大量の流体の上昇は2022年半ば以降生じていないと考えられる。2023年のM6.5の地震は、それ以前の東クラスターの活動域の浅部端を震源とし、珠洲沖セグメントとは異なる伏在断層で起こった地震である(Yoshida et al., 2023; Kato et al., 2023)。
M7.6の地震は能登半島北岸沖合にある複数の海底活断層が連動した地震である。本震の震源位置は、南東傾斜の断層帯、非地震性断層の浅部側に位置し、断層運動を促進する応力増加と流体の浸透により本震震源付近での断層すべりがトリガーされたと考えられる。また、本震や前震の震源は東と西のクラスターを繋ぐような伏在断層(M6.5の地震の断層も含む)上に位置する(吉田・他, 2024)。非地震性断層運動や2007年能登半島地震により、能登半島北岸沖の海底活断層は、断層運動を促進する応力増加を受けていたため、本震の震源付近で生じた断層すべりが周囲の伝播しやすい環境が整えられ、結果的にM7.6の地震規模となる断層すべりの連動が起こった可能性が考えられる。M7.6の地震では能登半島北岸での顕著な地盤隆起を伴う地殻変動、地震後は奥能登一帯での沈降を伴う余効変動が観測されている(西村・他, 2024)。令和6年能登半島地震の震源過程は地震、測地、津波データ等から推定されている。能登半島北西部の断層浅部での大すべりは、5 mに達する海岸での地盤隆起の原因であり、能登半島北東沖の海域の断層浅部での大すべりは、珠洲市や能登町で被害をもたらした津波の原因となった(例えば, 浅野・岩田, 2024)。また、震源から南西方向に伝播した断層破壊は、北東方向に伝播した断層破壊と13秒の時間差があり、Mw7.3の地震の2連発と捉えることもできる(浅野・岩田, 2024)。
謝辞 本報告で述べた研究の多くは、科研費(22K19949, 23K17482)の助成を受けた。現地での調査研究では多くの関係機関や住民の方々の協力を得た。記して感謝します。
引用文献
Amezawa, Y. et al. (2023) GRL, 50(8), e2022GL102670.
浅野・岩田 (2024) JpGU2024, U15–P20.
鹿児島・他 (2024) JpGU2024, U15–P58.
Kato A. (2024) GRL, 51(1), e2023GL106444.
Nishimura T. et al. (2023) Sci. Rep., 13, 8381.
西村・他 (2024) JpGU2024, U16-02.
Okada, T. et al. (2024) EPS, 76, 24.
Yoshida et al. (2023) GRL, 50(21), e2023GL106023.
吉田・他 (2024) JpGU2024, U15-P11.
吉村・他 (2023) 日本地震学会2023年秋季大会, S22-02.
能登半島北東部の群発地震の活動域は4つのクラスター(発生順に、南、西、北、東)から成る。西、北、東のクラスターでは南東傾斜の複数の震源分布や拡散的な震源移動が確認された。南クラスターでは15 km以深での地震発生があり、間欠的かつ他クラスターより速い拡散速度の震源移動や円環状の震源分布が見られ、過去の火山活動の構造を使って大量の流体上昇が間欠的に発生し、その流体が南東傾斜の断層へ浸透し、地震活動が活発化したと考えられる(e.g. Amezawa et al., 2023)。地震波速度構造や比抵抗構造から南クラスターの15 km以深に流体の存在が示唆される(e.g. Okada et al., 2024; 吉村・他, 2023)。なお。南クラスター周辺の温泉水は、3He/4He比から深部起源流体の混入が示唆される(鹿児島・他, 2024)。
局所的な非定常地殻変動は、南クラスターと他のクラスター間の地震空白域に位置する南東傾斜の低角な断層での開口またはせん断開口(逆断層型スロースリップを伴う)が変動源であり、南クラスターの深部から上昇した流体が南東傾斜の断層帯に浸透し、断層帯の深部で非地震性の断層運動を起こし、それに伴う応力増加により断層帯浅部での群発地震活動の活発化が生じた(Nishimura et al., 2023)。地震活動や非定常地殻変動から、南クラスター深部からの大量の流体の上昇は2022年半ば以降生じていないと考えられる。2023年のM6.5の地震は、それ以前の東クラスターの活動域の浅部端を震源とし、珠洲沖セグメントとは異なる伏在断層で起こった地震である(Yoshida et al., 2023; Kato et al., 2023)。
M7.6の地震は能登半島北岸沖合にある複数の海底活断層が連動した地震である。本震の震源位置は、南東傾斜の断層帯、非地震性断層の浅部側に位置し、断層運動を促進する応力増加と流体の浸透により本震震源付近での断層すべりがトリガーされたと考えられる。また、本震や前震の震源は東と西のクラスターを繋ぐような伏在断層(M6.5の地震の断層も含む)上に位置する(吉田・他, 2024)。非地震性断層運動や2007年能登半島地震により、能登半島北岸沖の海底活断層は、断層運動を促進する応力増加を受けていたため、本震の震源付近で生じた断層すべりが周囲の伝播しやすい環境が整えられ、結果的にM7.6の地震規模となる断層すべりの連動が起こった可能性が考えられる。M7.6の地震では能登半島北岸での顕著な地盤隆起を伴う地殻変動、地震後は奥能登一帯での沈降を伴う余効変動が観測されている(西村・他, 2024)。令和6年能登半島地震の震源過程は地震、測地、津波データ等から推定されている。能登半島北西部の断層浅部での大すべりは、5 mに達する海岸での地盤隆起の原因であり、能登半島北東沖の海域の断層浅部での大すべりは、珠洲市や能登町で被害をもたらした津波の原因となった(例えば, 浅野・岩田, 2024)。また、震源から南西方向に伝播した断層破壊は、北東方向に伝播した断層破壊と13秒の時間差があり、Mw7.3の地震の2連発と捉えることもできる(浅野・岩田, 2024)。
謝辞 本報告で述べた研究の多くは、科研費(22K19949, 23K17482)の助成を受けた。現地での調査研究では多くの関係機関や住民の方々の協力を得た。記して感謝します。
引用文献
Amezawa, Y. et al. (2023) GRL, 50(8), e2022GL102670.
浅野・岩田 (2024) JpGU2024, U15–P20.
鹿児島・他 (2024) JpGU2024, U15–P58.
Kato A. (2024) GRL, 51(1), e2023GL106444.
Nishimura T. et al. (2023) Sci. Rep., 13, 8381.
西村・他 (2024) JpGU2024, U16-02.
Okada, T. et al. (2024) EPS, 76, 24.
Yoshida et al. (2023) GRL, 50(21), e2023GL106023.
吉田・他 (2024) JpGU2024, U15-P11.
吉村・他 (2023) 日本地震学会2023年秋季大会, S22-02.
Comment
To browse or post comments, you must log in.Log in