Presentation Information
[T5-O-1][Invited]New usage of natural analogues for narrative approach
*Tsutomu SATO1 (1. Faculty of Engineering, Hokkaido Univ.)
【ハイライト講演】高レベル放射性廃棄物の地層処分においては,廃棄物とそれを包む人工バリアおよび天然バリア(岩盤)から成るシステム全体の長期間の安全性を示す論拠として,ナチュラルアナログ(天然類似現象)が利用されてきました.佐藤氏は近年,地層処分に関する市民との対話として,“言葉を紡いだ物語に基づく技術(ナラティブ・ベイスト・エンジニアリング:NBE)”を用いたナチュラルアナログの新たな利用法を提案しています.この手法は,高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する市民目線での疑問に応える手法として注目されます.(ハイライト講演とは...)
Keywords:
Natural analogue study,Geological disposal,Radioactive wastes,Narrative approach,Safety Case
地層処分システムの安全評価の結果とこれを「支援する論拠」を組み合わせたものはセーフティケース(SC)と位置付けられ、そのSCにおいてナチュラルアナログ(NA)研究は重要な要素と位置付けられている。Alexander et al., (2007)は、「放射性廃棄物処分は、安全性の確保が必要となる対象期間が長いタイムスケールとなるため、安全性の解析はかなり挑戦的なものとなる。 このタイムスケールは場合によっては100万年とも言われ、室内実験や原位置試験が扱える範囲をはるかに超えてしまう。したがって、室内実験や原位置試験のデータを遠い将来まで外挿することによってモデル化しようとする際には、それが適切かつ信頼できるものであるという証拠を示すことが必要となる。長期にわたって外挿した推定値を裏付ける方法のひとつに、自然科学的及び考古学的な類似を利用する方法がある。NA 研究は,科学的な洞察を提供するだけでなく、一般の人々とのコミュニケーションにおいても大きな価値を持つ」とし、幅広いステークホルダーとのコミュニケーションの場における対話のための強力なツールとしてのNA研究の重要性を示唆している(藤田他, 2024)。また、NEA/OECD が公表したSCの構築に関する国際的な指針(NEA/OECD,2004)にも、同様な指摘がなされている。
我が国においても、市民へのわかりやすい事例として、約13億年前に形成されて保存されているウラン鉱床や、100万年前に堆積した泥質岩中に保存されている火山ガラス、1900年前に古代ローマ軍の要塞跡に埋められ保存されていた鉄くぎ等が紹介されてきた。これに対して、このようなNA研究は、紹介する側の意に反して批判の対象とされることも多い。例えば藤村他(2001)は、「NAとは、古代のガラスや金属がいまも形を保って出土したり、ウラン鉱床のウランが何千万年や何億年も動かずに保存されていたといった類のものである。当然のことだが、形が残っていなかったり移動してしまったものについては何もわからない。(中略)大事なのは、地質中に保存された場合と保存されなかった場合の条件の違いを明らかにして、望ましい条件が現実の処分場でどれだけ長期間確実に実現するのかを検討することである」と批判している。筆者も、このNA研究の示し方に対する批判には同感である。
分かり易さを優先したために、「なぜ保存されたのか」という説明のところが省略されて、「地層には長く保存されているものがある」というエビデンスのみを伝える材料になっていたことによる弊害と考える。完全に無くなってしまったものを研究するのは至難の業であるが、ウラン鉱床が生成した条件と異なる条件におかれてウランが少し下流に流れている鉱床や、表面が少し変質して粘土鉱物に変化している火山ガラスの事例の研究は十分可能である(処分システムとのアナログ性が弱くなることに目をつむらなければならないかもしれないが)。筆者は、完全に保存されている事例と上述のような少し変質してしまった事例を物語にして、様々なレベルでの対話が可能であると考える。これが筆者の考える「言葉をつないだ物語に基づくナラティブ・ベイスト(NB)な地層処分研究としての新しいNA研究の利用法」であり、多様なステークホルダー間の合意形成のためのプラットフォームの役割を担うべきSCを構築するためのNA研究のあるべき姿と考える。
本招待講演では、筆者の実施してきた少し志向の異なるNA研究を紹介し、筆者の考える対話のための物語を紹介する。地質現象のある時間断面を詳細に調べ、その場の過去を読み解いて将来を予測することに長けている方々が集まる日本地質学会の学術大会で、様々な立場の方々とNBエンジニアリングのあり方についてのご議論をいただければ幸いである。
Allexander, W.R. et al.: Deep Geological Disposal of Radioactive Waste, Radioactivity in the environment, Vol. 9, Elsevier Science, p.296 (2007)
藤村陽他:高レベル放射性廃棄物の地層処分はできるか II-地層処分の安全性は保証されてはいない-,科学, 3月号, 264-274 (2001).
藤田和果奈他:2023 年度ナチュラルアナログ研究ワークショップ開催報告,NUMO-TR-24-02,p.50 (2024).
NEA/OECD: Post-closure safety case for geological repositories: Nature and purpose, NEA No. 3679, p.54 (2004).
我が国においても、市民へのわかりやすい事例として、約13億年前に形成されて保存されているウラン鉱床や、100万年前に堆積した泥質岩中に保存されている火山ガラス、1900年前に古代ローマ軍の要塞跡に埋められ保存されていた鉄くぎ等が紹介されてきた。これに対して、このようなNA研究は、紹介する側の意に反して批判の対象とされることも多い。例えば藤村他(2001)は、「NAとは、古代のガラスや金属がいまも形を保って出土したり、ウラン鉱床のウランが何千万年や何億年も動かずに保存されていたといった類のものである。当然のことだが、形が残っていなかったり移動してしまったものについては何もわからない。(中略)大事なのは、地質中に保存された場合と保存されなかった場合の条件の違いを明らかにして、望ましい条件が現実の処分場でどれだけ長期間確実に実現するのかを検討することである」と批判している。筆者も、このNA研究の示し方に対する批判には同感である。
分かり易さを優先したために、「なぜ保存されたのか」という説明のところが省略されて、「地層には長く保存されているものがある」というエビデンスのみを伝える材料になっていたことによる弊害と考える。完全に無くなってしまったものを研究するのは至難の業であるが、ウラン鉱床が生成した条件と異なる条件におかれてウランが少し下流に流れている鉱床や、表面が少し変質して粘土鉱物に変化している火山ガラスの事例の研究は十分可能である(処分システムとのアナログ性が弱くなることに目をつむらなければならないかもしれないが)。筆者は、完全に保存されている事例と上述のような少し変質してしまった事例を物語にして、様々なレベルでの対話が可能であると考える。これが筆者の考える「言葉をつないだ物語に基づくナラティブ・ベイスト(NB)な地層処分研究としての新しいNA研究の利用法」であり、多様なステークホルダー間の合意形成のためのプラットフォームの役割を担うべきSCを構築するためのNA研究のあるべき姿と考える。
本招待講演では、筆者の実施してきた少し志向の異なるNA研究を紹介し、筆者の考える対話のための物語を紹介する。地質現象のある時間断面を詳細に調べ、その場の過去を読み解いて将来を予測することに長けている方々が集まる日本地質学会の学術大会で、様々な立場の方々とNBエンジニアリングのあり方についてのご議論をいただければ幸いである。
Allexander, W.R. et al.: Deep Geological Disposal of Radioactive Waste, Radioactivity in the environment, Vol. 9, Elsevier Science, p.296 (2007)
藤村陽他:高レベル放射性廃棄物の地層処分はできるか II-地層処分の安全性は保証されてはいない-,科学, 3月号, 264-274 (2001).
藤田和果奈他:2023 年度ナチュラルアナログ研究ワークショップ開催報告,NUMO-TR-24-02,p.50 (2024).
NEA/OECD: Post-closure safety case for geological repositories: Nature and purpose, NEA No. 3679, p.54 (2004).
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