Presentation Information
[T1-O-6]The importance of CO2 metasomatism: Experimental implication to slow earthquakes caused by heterogeneity of fluid-rock interaction★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*Shunya Okino1, Atsushi Okamoto1, Yukiko Kita2, Sando Sawa2, Jun Muto2 (1. Tohoku University Graduate School of Environmental Studies, 2. Department of EARTH SCIENCES, Graduate School of Science, Tohoku University)
Keywords:
subduction zone,slow slip,carbon fixation,mantle wedge,rheology
はじめに
沈み込み帯には毎年莫大な量の炭素が持ち込まれている.しかし,持ち込まれた炭素がマントルウェッジ深度で,どのように振る舞っているのかは明らかではない.マントルは炭素を炭酸塩鉱物として固定し,副生成物として滑石などを生成する.特に,滑石はマントルに生成する鉱物の中で最も低い摩擦係数を持ち,地殻-マントル間を滑りやすくする可能性がある.地震波観測網の発達により,様々な特徴を持つスロー地震が観測されている.その原因として間隙水圧の上昇に注目されてきたが,近年,岩石-流体反応,例えば,マントルウェッジに形成された滑石層がスロースリップを引き起こしている可能性なども提案されている1.これまで,高圧変成帯の蛇紋岩体に炭酸塩鉱物を伴った滑石脈が見つかっている2ものの,マントルウェッジ深度での地殻-マントル物質境界におけるレオロジーとマントル炭酸塩化の直接的な関連は全くわかっていない.本研究では,マントルウェッジの温度圧力条件において地殻-マントル境界を模擬した反応実験を行い,物質移動を伴う反応の特徴,およびCO2流体が滑石の生成やすべり挙動に与える影響を検討した.
実験
地殻-マントル境界を模擬し,Griggs型固体圧変形試験機を用いて,500℃・1GPaの静水圧下での反応実験を行った.実験試料は,珪岩(ブラジル産)または泥質片岩(三波川帯,長瀞)のコア試料を,ハルツバージャイト(幌満かんらん岩)と蛇紋岩(アンチゴライト+クリソタイル,長瀞)で上下に挟み,沈み込む堆積物が無水または含水マントルと接する境界を模擬した.流体としては,純粋なH2O流体と,シュウ酸二水和物(OAD)の分解によるH2O-CO2流体の2種類を用いた.OADは200℃でCO2,H2O,H2に分解される.H2O-CO2流体の実験では,H2Oを4 wt%,XCO2を0.2とした.また,同じ温度圧力条件下,H2O-CO2流体(XCO2=0.25)を用いて,石英岩-かんらん岩の変形実験を行った.石英岩とかんらん岩のコア試料に片面にソーカットを施し,45°で接するようにした.
結果と考察
地殻物質として珪岩を用いたH2O流体の実験では,かんらん岩側には厚さ10 µmの滑石層が形成されたが,蛇紋岩側では亀裂の周りを中心に滑石が生成し,境界にはほとんど生成しなかった.一方CO2流体の実験では,かんらん岩,蛇紋岩ともに滑石生成量は大きく増加し,境界には滑石のみが見られ,内部にはマグネサイトと滑石が生成した.組織としては,かんらん岩ではブロック状に割れるメッシュ状の反応組織を示す一方,蛇紋岩では炭酸塩鉱物+滑石が細脈と生成している.また,短時間の実験(13 h)では,いずれのマントル物質にも境界付近で石英とマグネサイトが形成した.泥質片岩を用いた場合は,かんらん岩では珪岩を用いた場合と同様に滑石層が形成したが,蛇紋岩では境界に滑石と蛇紋石の混合物が形成し,内部に細い滑石脈が見られた.泥質片岩側は曹長石が選択的に変質していた.CO2流体を導入した場合は,珪岩の時と同様,滑石とマグネサイトが形成し,泥質片岩側の白雲母のリムが変質していた.
珪岩を用いた実験のマスバランス解析は,かんらん岩や蛇紋岩において起こる滑石の形成は,Si交代作用ではなくて,CO2交代作用によって進行したことを示している.また,反応初期での石英の析出は,初期流体中の高いCO2濃度によって説明できる.時間が経過すると,珪岩との境界付近では石英による高いSi活量によって滑石のみの領域が形成したと考えられる.泥質片岩を用いた場合も同様であるが,マスバランス解析によりMgとSiの双方向な移動が地殻とマントルの間で起こったことが示唆された.
変形実験は,変形開始前に3時間静水圧下で反応させ,8.3×10-5 /sの歪速度で12時間変形させた.実験生成物から,石英+マグネサイト+かんらん石からなる組織がかんらん岩から分離している様子が観察された.境界では滑石層が生成し,局所的な変形が起きていた.応力-時間曲線には,降伏直後に差応力が急激な降下の後に回復するイベントが記録された.これらのことから反応初期に形成された強度の大きい石英+マグネサイト領域が変形に伴って分離し,その後は滑石層によって変形がまかなわれたと考えられる.
以上,本実験の結果は,少なくともXCO2が~0.2の条件では,マントルの,CO2交代作用はSi交代作用と比較して著しく反応が早く進行し,岩相境界と岩体内部で生成鉱物の空間的・時間的不均質性が生じることが明らかとなった.この不均質性がスラブ-マントル間のすべり挙動に複雑性と多様性をもたらし,スロー地震の一因となっている可能性がある.
参考文献
1. Lindquist et al., 2023, Geochem. Geophys. Geosyst.
2. Okamoto et al., 2021, Commun. Earth Environ.
沈み込み帯には毎年莫大な量の炭素が持ち込まれている.しかし,持ち込まれた炭素がマントルウェッジ深度で,どのように振る舞っているのかは明らかではない.マントルは炭素を炭酸塩鉱物として固定し,副生成物として滑石などを生成する.特に,滑石はマントルに生成する鉱物の中で最も低い摩擦係数を持ち,地殻-マントル間を滑りやすくする可能性がある.地震波観測網の発達により,様々な特徴を持つスロー地震が観測されている.その原因として間隙水圧の上昇に注目されてきたが,近年,岩石-流体反応,例えば,マントルウェッジに形成された滑石層がスロースリップを引き起こしている可能性なども提案されている1.これまで,高圧変成帯の蛇紋岩体に炭酸塩鉱物を伴った滑石脈が見つかっている2ものの,マントルウェッジ深度での地殻-マントル物質境界におけるレオロジーとマントル炭酸塩化の直接的な関連は全くわかっていない.本研究では,マントルウェッジの温度圧力条件において地殻-マントル境界を模擬した反応実験を行い,物質移動を伴う反応の特徴,およびCO2流体が滑石の生成やすべり挙動に与える影響を検討した.
実験
地殻-マントル境界を模擬し,Griggs型固体圧変形試験機を用いて,500℃・1GPaの静水圧下での反応実験を行った.実験試料は,珪岩(ブラジル産)または泥質片岩(三波川帯,長瀞)のコア試料を,ハルツバージャイト(幌満かんらん岩)と蛇紋岩(アンチゴライト+クリソタイル,長瀞)で上下に挟み,沈み込む堆積物が無水または含水マントルと接する境界を模擬した.流体としては,純粋なH2O流体と,シュウ酸二水和物(OAD)の分解によるH2O-CO2流体の2種類を用いた.OADは200℃でCO2,H2O,H2に分解される.H2O-CO2流体の実験では,H2Oを4 wt%,XCO2を0.2とした.また,同じ温度圧力条件下,H2O-CO2流体(XCO2=0.25)を用いて,石英岩-かんらん岩の変形実験を行った.石英岩とかんらん岩のコア試料に片面にソーカットを施し,45°で接するようにした.
結果と考察
地殻物質として珪岩を用いたH2O流体の実験では,かんらん岩側には厚さ10 µmの滑石層が形成されたが,蛇紋岩側では亀裂の周りを中心に滑石が生成し,境界にはほとんど生成しなかった.一方CO2流体の実験では,かんらん岩,蛇紋岩ともに滑石生成量は大きく増加し,境界には滑石のみが見られ,内部にはマグネサイトと滑石が生成した.組織としては,かんらん岩ではブロック状に割れるメッシュ状の反応組織を示す一方,蛇紋岩では炭酸塩鉱物+滑石が細脈と生成している.また,短時間の実験(13 h)では,いずれのマントル物質にも境界付近で石英とマグネサイトが形成した.泥質片岩を用いた場合は,かんらん岩では珪岩を用いた場合と同様に滑石層が形成したが,蛇紋岩では境界に滑石と蛇紋石の混合物が形成し,内部に細い滑石脈が見られた.泥質片岩側は曹長石が選択的に変質していた.CO2流体を導入した場合は,珪岩の時と同様,滑石とマグネサイトが形成し,泥質片岩側の白雲母のリムが変質していた.
珪岩を用いた実験のマスバランス解析は,かんらん岩や蛇紋岩において起こる滑石の形成は,Si交代作用ではなくて,CO2交代作用によって進行したことを示している.また,反応初期での石英の析出は,初期流体中の高いCO2濃度によって説明できる.時間が経過すると,珪岩との境界付近では石英による高いSi活量によって滑石のみの領域が形成したと考えられる.泥質片岩を用いた場合も同様であるが,マスバランス解析によりMgとSiの双方向な移動が地殻とマントルの間で起こったことが示唆された.
変形実験は,変形開始前に3時間静水圧下で反応させ,8.3×10-5 /sの歪速度で12時間変形させた.実験生成物から,石英+マグネサイト+かんらん石からなる組織がかんらん岩から分離している様子が観察された.境界では滑石層が生成し,局所的な変形が起きていた.応力-時間曲線には,降伏直後に差応力が急激な降下の後に回復するイベントが記録された.これらのことから反応初期に形成された強度の大きい石英+マグネサイト領域が変形に伴って分離し,その後は滑石層によって変形がまかなわれたと考えられる.
以上,本実験の結果は,少なくともXCO2が~0.2の条件では,マントルの,CO2交代作用はSi交代作用と比較して著しく反応が早く進行し,岩相境界と岩体内部で生成鉱物の空間的・時間的不均質性が生じることが明らかとなった.この不均質性がスラブ-マントル間のすべり挙動に複雑性と多様性をもたらし,スロー地震の一因となっている可能性がある.
参考文献
1. Lindquist et al., 2023, Geochem. Geophys. Geosyst.
2. Okamoto et al., 2021, Commun. Earth Environ.
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