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[T3-O-4]Four largest flood events in the archeological sites on the Chikumagawa River in the Nagano Basin, central Japan

*Koichi Hoyanagi1 (1. Shinshu University)
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Keywords:

event sediments,flood sand beds,archeology

はじめに
 善光寺平とも呼ばれる長野盆地には,千曲川(信濃川の長野県内の呼称)流域を中心に多くの縄文時代以降の遺跡が発見されている.また,弥生時代以降の稲作に関わる条里遺跡が多く見出されている.そして,畦などの構造物が砂層によって覆われて保存されていることがある.低頻度で起こり通常に比して極めて甚大な影響を環境や人間生活に与える嵐や洪水もしくは津波などは,イベント堆積物と呼ばれる厚い砂層を残し,それらの下位の地層や構造物の保存に大きな役割を果たしている.この発表では,歴史記録に残されている巨大洪水である平安時代(888年)の仁和洪水の砂層が発見された石川条里遺跡,江戸時代中期(1745年)の戌の満水,江戸時代後期(1847年)の善光寺地震洪水,そして明治29年(1897年)洪水の砂層が発見されたに長沼城跡ついて紹介する.
仁和洪水砂層と石川条里遺跡
 長野盆地南部の千曲川右岸千曲市の屋代遺跡群地之目条里遺跡とその対岸の長野市塩崎の石川条里遺跡などで,仁和洪水の砂層により埋積された平安時代の条里遺跡が見出されている.仁和洪水は,千曲川上流の八ヶ岳山麓に形成された天然ダムの決壊による洪水とされ(河内,1983;川崎,2000),地之目条里を覆う砂層は約2 mの層厚を持つ.この洪水砂は筆者のこれまでの研究で,近隣の(自然)堤防の決壊にり洪水の水位が徐々に上昇することで逆級化構造を形成し,引き続く上流の天然ダムの全面決壊による洪水流によりその上位に正級化砂層が形成された事が分かっている.一方,左岸の石川条里遺跡の仁和洪水砂層は,厚さ最大1 mで1サイクルの正級化構造を示し,ダムの全面決壊による2回目の洪水流による砂層によってのみ条里遺構が覆われていると考えられる.なお,石川条里遺跡の遺跡土層の全有機炭素量(TOC),安定炭素同位体比(δ13C),粒度分析,珪藻分析により,水田の拡大・縮小と気候変動や洪水イベントとの関連が検討できる.
江戸時代以降の三大洪水と長沼城跡 
 長野盆地においては,近・現代の人間活動が地表下1〜2 mの記録を撹乱しており,近世以降の洪水による砂層が保存されていることは希である.長野市北部の穂保長沼地域は,2019年の台風19号により,堤防が決壊して洪水により大きな被害を受けた.長沼城跡は堤防決壊地点に隣接しており河川防災ステーション設置のために発掘が進められている.長沼城は戦国時代の16世紀中頃に武田氏の支配の下において,上杉氏との最前線の城として整備された.江戸時代になり長沼藩が置かれ平城として拡張された.しかし,1688年に城主佐久間氏の改易により廃城になり,1725年にはその西堀が水田に転用されたという記録がある.西堀跡の深掘りトレンチによって,堀の基底は現地表面下約6 mで,埋積物は厚さ約6 m でかつその下位も水域の堆積物である事が判明した.還元的環境を示す黒色の炭質泥層が堀の基底であり,既存の水域を閉鎖し堀とし,その東側に盛土をして城としたと考えられる.盛土には周辺の自然堤防の砂層と長野盆地西側山地の裾花凝灰岩が使われている.明暗を繰り返すシルト層からなる堀の堆積物の厚さは約1 mである.その上位の明灰色粘土層と灰色シルト層は,水田耕作層かもしれない.その上位に砂質シルトないし極細粒砂が70 cmの厚さで堆積している.この砂質の層は,水田転用の年代から1745年の戌の満水による洪水砂層である可能性が高い.その上位2 mは根痕を伴うシルト層で,水田耕作地もしくは草地であったと考えられる.それを覆って厚さ約15 cmの細粒砂層とさらその上位50 cmに厚さ約30cmの砂層が認められる.それぞれは1847年の善光寺地震に伴う支流犀川における天然ダム決壊洪水,そして1897年の明治29年洪水起源である可能性がある.なお,この上位の土層の安定炭素同位体比が低い値を示すことから,洪水後には現在見られるように果樹園に転換され利用されてきたと考えられる.
まとめ
 長野盆地の平安時代,江戸時代の遺跡は,千曲川の洪水砂によりその遺構が埋積されて残されたものがある.その結果,歴史記録にある4つの大きな洪水イベントをこれらの遺跡から見出すことができた.
文献:河内晋平,1983,八ヶ岳大月川岩屑流,地質学雑誌,89,173-182.
川崎 保,2000,仁和の洪水砂層と大月川岩屑なだれ,長野県埋蔵文化財センター紀要,8,39-48.
研究協力:(財)長野県埋蔵文化財センター

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