Presentation Information
[T3-O-11]"Yamagawa-ishi", a stone material of pyroclastic origin from Yamagawa, Ibusuki City, Kagoshima Prefecture, Japan. - The tombstones of successive lords of the Shimazu clan of the Satsuma domain is zeolitic tuff -
*Takashi Ishibashi1, Kenji Asakura1, Kimihiko Oki2, Hirotsugu Matsusaki3, Masaya Sakamoto4, Shoji Nishimoto5 (1. Geosci. Soc. Edu. Assoc., 2. Kagoshima Univ., 3. Ibusuki City Board of Edu., 4. Kyushu Lutheran Coll., 5. Aichi Univ.)
Keywords:
Yamagawa-ishi,tuff stone material,zeolitic tuff,mordenite,Shimazu clan
鹿児島県の指宿市山川に産する火砕岩起源の石材「山川石(やまがわいし)」について、岩石学および鉱物学的な検討を行った。結果、山川石はモルデン沸石を主体として少量の石英が伴われる「沸石岩(ふっせきがん)」であることが明らかになった。石材として優れている山川石の特徴は、沸石岩であることに由来すると考えられる。
薩摩地域には、新生代第四紀に活動した火山起源の様々な火砕流堆積物が広く見られる。これらの火砕岩類は代表的な溶結凝灰岩をはじめ石材として利用されていることが知られる(例えば、大木, 2015)。歴史的建造物から現代の街中の石造物に至るまで随所に火砕岩が活用され、火山によって造られた大地における独特の石造物文化が感じられる。
多様な薩摩地域の火砕岩類石材のうち、物性や歴史的利用方法が特異であり、旧薩摩藩と藩主の島津宗家にとって特別といえる石が山川石である。山川石は薩摩半島南部の山川湾の南側で採掘される福元火砕岩類の凝灰岩の石材名で、淡黄色-黄土色を呈し、比較的軟らかく均質細粒であり、切削しやすいために緻密な細工に適した石材である。乾燥した山川石に舌先をつけると舌が吸着される特徴があり、これは微細な空隙があることによる毛細管現象であると考えられ、この空隙によって断熱効果にも優れる。他の火砕岩類石材と比べて風化に強いことも特徴である。古くは14世紀前半から石造物に使用されるが、先述の優れた特性から15世紀後半から18世紀後半に至るまで島津宗家の藩主の墓石などに使用されており特別な石材とみなされる。福昌寺跡にある近世島津家の歴代藩主墓に用いられている宝筐印塔は15世紀から山川石の使用と関わって出現し、16世紀後半以降に段階的に塔の大型化と装飾化を遂げ、次第に供養塔からステイタスシンボルへと墓塔の性格変化していったことが指摘されている(松田, 2004)。これは山川石の細密彫刻などの優れた加工性や風化耐性があってのものだと考えられる。
ここまでに山川石の巨視的外見的特徴や物性的特徴を挙げてきたが、これらは総じて「沸石岩」の特徴を示唆するものであったために、山川石が沸石岩である可能性を考えて、X線粉末回折実験による構成鉱物種の同定が行われた。緻密で均質な山川石を粉末にして、島津製作所製X線回折計XRD6000を用いて得られた回折パターンは、ICDDカードのモルデン沸石の主要な回折パターンと良い一致を示すほか、石英のピークが認められる(図).
山川石はモルデン沸石を主体とする沸石岩とみなされるが、沸石岩は凝灰岩が埋没して水の豊富な環境で熱変成作用を受けることによって形成されると考えられる。変成岩とみなすことができ、変成岩の変成相図では比較的低温低圧な沸石相の条件で生成された岩石である。モルデン沸石の場合は、圧力は0.1GPaとした場合で約150℃程度で生成される。XRDによる鉱物種の同定では、モルデン沸石の他には石英が認められたのみであり、原岩の凝灰岩に含まれていたであろう長石族鉱物あるいは火山ガラスは、変成作用によってモルデン沸石に置換されたと考えられる。
【引用文献】
大木公彦(2015):鹿児島に分布する火砕流堆積物と溶結凝灰岩の石材.鹿児島国際大学考古学ミュージアム調査研究報告, 12, 7-30.
松田朝由(2004):島津本家における近世大名墓の形成と特質.縄文の森から, 2, 91-108.
薩摩地域には、新生代第四紀に活動した火山起源の様々な火砕流堆積物が広く見られる。これらの火砕岩類は代表的な溶結凝灰岩をはじめ石材として利用されていることが知られる(例えば、大木, 2015)。歴史的建造物から現代の街中の石造物に至るまで随所に火砕岩が活用され、火山によって造られた大地における独特の石造物文化が感じられる。
多様な薩摩地域の火砕岩類石材のうち、物性や歴史的利用方法が特異であり、旧薩摩藩と藩主の島津宗家にとって特別といえる石が山川石である。山川石は薩摩半島南部の山川湾の南側で採掘される福元火砕岩類の凝灰岩の石材名で、淡黄色-黄土色を呈し、比較的軟らかく均質細粒であり、切削しやすいために緻密な細工に適した石材である。乾燥した山川石に舌先をつけると舌が吸着される特徴があり、これは微細な空隙があることによる毛細管現象であると考えられ、この空隙によって断熱効果にも優れる。他の火砕岩類石材と比べて風化に強いことも特徴である。古くは14世紀前半から石造物に使用されるが、先述の優れた特性から15世紀後半から18世紀後半に至るまで島津宗家の藩主の墓石などに使用されており特別な石材とみなされる。福昌寺跡にある近世島津家の歴代藩主墓に用いられている宝筐印塔は15世紀から山川石の使用と関わって出現し、16世紀後半以降に段階的に塔の大型化と装飾化を遂げ、次第に供養塔からステイタスシンボルへと墓塔の性格変化していったことが指摘されている(松田, 2004)。これは山川石の細密彫刻などの優れた加工性や風化耐性があってのものだと考えられる。
ここまでに山川石の巨視的外見的特徴や物性的特徴を挙げてきたが、これらは総じて「沸石岩」の特徴を示唆するものであったために、山川石が沸石岩である可能性を考えて、X線粉末回折実験による構成鉱物種の同定が行われた。緻密で均質な山川石を粉末にして、島津製作所製X線回折計XRD6000を用いて得られた回折パターンは、ICDDカードのモルデン沸石の主要な回折パターンと良い一致を示すほか、石英のピークが認められる(図).
山川石はモルデン沸石を主体とする沸石岩とみなされるが、沸石岩は凝灰岩が埋没して水の豊富な環境で熱変成作用を受けることによって形成されると考えられる。変成岩とみなすことができ、変成岩の変成相図では比較的低温低圧な沸石相の条件で生成された岩石である。モルデン沸石の場合は、圧力は0.1GPaとした場合で約150℃程度で生成される。XRDによる鉱物種の同定では、モルデン沸石の他には石英が認められたのみであり、原岩の凝灰岩に含まれていたであろう長石族鉱物あるいは火山ガラスは、変成作用によってモルデン沸石に置換されたと考えられる。
【引用文献】
大木公彦(2015):鹿児島に分布する火砕流堆積物と溶結凝灰岩の石材.鹿児島国際大学考古学ミュージアム調査研究報告, 12, 7-30.
松田朝由(2004):島津本家における近世大名墓の形成と特質.縄文の森から, 2, 91-108.
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