Presentation Information
[T16-O-1]Trace-element behavior in apatite, as a redox proxy for silicic magmas
*Yusuke SAWAKI1, Hisashi ASANUMA2 (1. The University of Tokyo, 2. Kyoto University)
Keywords:
apatite,Miocene granitoids,trace elements
マグマの酸化還元状態は火山ガスの組成ひいては噴火様式や鉱床形成過程に影響を与えると共に、マグマの起源物質の推定にも役立つ非常に重要なパラメーターである。珪長質マグマの酸化還元状態は全岩化学組成から推定されるべきであるが、岩石が変成・変質・風化等の作用を被った場合、全岩組成からの推定が困難な場合もある。そのような場合にはジルコンのCe異常などを酸化還元指標に用いるが(Trail et al., 2012等)、ジルコンの晶出が遅い場合にはジルコン晶出前にマグマの酸化還元状態が変化してしまっている可能性がある。そこで、より初期からの晶出が見込まれる燐灰石に着目する。燐灰石中のS, V, As, Mn, Feといった酸化還元鋭敏元素が珪長質マグマの酸化還元指標として有用と目されて以降(Sha and Chappell, 1999)、各元素の酸化還元指標としての可能性が検証され続けている(Miles et al., 2014; Bromiley, 2021; Wang et al., 2022等)。Sについては肯定的な結果が並ぶ一方、MnとVについては意見が割れている。ただし、各論文はそれぞれ異なる地域の岩石を対象にしており、地域性が色濃く反映されている可能性もあり、上記5元素の酸化還元指標としての一般性はより広範域をカバーした、同じデータセットで検証されるべきである。
本研究では西南日本広範に分布する中新世花崗岩に着目し、今回は丹沢トーナル岩体、甲府花崗岩体、大峯花崗岩体を対象とした。甲府花崗岩体では芦川-藤野木、笹子、広瀬、昇仙峡、瑞牆岩体から、大峯花崗岩体からは洞川、川迫、天狗山、白谷岩体から新鮮な花崗岩を採取した。薄片中の斜長石及び単離した燐灰石の微量元素濃度をLA-ICP-MS/MSを用いて測定した。
斜長石中のFe濃度はマグマの酸化還元状態の推定に有用と見込まれる(Lundgaard and Tegner, 2004等)。分析結果に基づくと、芦川-藤野木岩体が最も酸化的であり、次いで丹沢、笹子、広瀬岩体と還元的となる。斜長石中のFe濃度という観点からは昇仙峡、瑞牆、洞川、川迫、天狗山、白谷岩体が最も還元的で、この6岩体の間に明瞭な差異はない。
燐灰石中のS濃度は芦川-藤野木及び丹沢岩体で概ね60–200 μg/gと高く、笹子、広瀬岩体は80 μg/g前後、その他の岩体は80 μg/g以下である。特に、大峯花崗岩体では10 μg/g以下の燐灰石が卓越する。この結果は先行研究同様に燐灰石のS濃度が酸化還元指標となることを支持する。Vについては芦川-藤野木、丹沢、笹子、広瀬岩体の燐灰石は10 μg/g以上、昇仙峡、瑞牆岩体は2–6 μg/g程度、その他の岩体は1 μg/g前後であった。これはVも酸化還元指標として有用である事を示すとともに、Vの方がより還元的な酸化還元電位の変化に敏感であると見込まれる。Wang et al. (2022)においてVの指標としての有効性に否定的な結果となったのは、使用した岩石の酸化還元状態の幅が狭かった事が一因と考えられる。一方Asについては明瞭な傾向は確認されなかった。
Sha and Chappell (1999)やMiles et al. (2014)によると、還元的マグマの中ではMnが2価となるため、燐灰石への分配が増して900μg/g以上のMn濃度になるとされる。しかし、本研究の結果では、酸化的だと推定される丹沢花崗岩体においても、燐灰石のMn濃度が1500–2300 μg/g程度と高い。燐灰石のMnとSr濃度の間に弱いながら負相関がみられ、これは晶出タイミングが遅い燐灰石ほどMnに富む事を示唆している。よって、燐灰石のMn濃度はマグマの酸化還元状態でなく、共存鉱物との結晶順序を反映すると考察される。本研究の結果は酸化還元指標として有用なのはSとVであり、この2元素を相補的に使用することが望ましいと思われる。
文献:Trail et al. (2012) GCA 97, 70-87; Sha and Chappell (1999) GCA 63, 3861-3881; Miles et al. (2014) GCA 132, 101-119; Bromiley (2021) Lithos 384-385, 105900; Wang et al. (2022) Lithos 422-423, 106749; Lundgaard and Tegner (2004) Contrib. Mineral Petrol. 147, 470-483.
本研究では西南日本広範に分布する中新世花崗岩に着目し、今回は丹沢トーナル岩体、甲府花崗岩体、大峯花崗岩体を対象とした。甲府花崗岩体では芦川-藤野木、笹子、広瀬、昇仙峡、瑞牆岩体から、大峯花崗岩体からは洞川、川迫、天狗山、白谷岩体から新鮮な花崗岩を採取した。薄片中の斜長石及び単離した燐灰石の微量元素濃度をLA-ICP-MS/MSを用いて測定した。
斜長石中のFe濃度はマグマの酸化還元状態の推定に有用と見込まれる(Lundgaard and Tegner, 2004等)。分析結果に基づくと、芦川-藤野木岩体が最も酸化的であり、次いで丹沢、笹子、広瀬岩体と還元的となる。斜長石中のFe濃度という観点からは昇仙峡、瑞牆、洞川、川迫、天狗山、白谷岩体が最も還元的で、この6岩体の間に明瞭な差異はない。
燐灰石中のS濃度は芦川-藤野木及び丹沢岩体で概ね60–200 μg/gと高く、笹子、広瀬岩体は80 μg/g前後、その他の岩体は80 μg/g以下である。特に、大峯花崗岩体では10 μg/g以下の燐灰石が卓越する。この結果は先行研究同様に燐灰石のS濃度が酸化還元指標となることを支持する。Vについては芦川-藤野木、丹沢、笹子、広瀬岩体の燐灰石は10 μg/g以上、昇仙峡、瑞牆岩体は2–6 μg/g程度、その他の岩体は1 μg/g前後であった。これはVも酸化還元指標として有用である事を示すとともに、Vの方がより還元的な酸化還元電位の変化に敏感であると見込まれる。Wang et al. (2022)においてVの指標としての有効性に否定的な結果となったのは、使用した岩石の酸化還元状態の幅が狭かった事が一因と考えられる。一方Asについては明瞭な傾向は確認されなかった。
Sha and Chappell (1999)やMiles et al. (2014)によると、還元的マグマの中ではMnが2価となるため、燐灰石への分配が増して900μg/g以上のMn濃度になるとされる。しかし、本研究の結果では、酸化的だと推定される丹沢花崗岩体においても、燐灰石のMn濃度が1500–2300 μg/g程度と高い。燐灰石のMnとSr濃度の間に弱いながら負相関がみられ、これは晶出タイミングが遅い燐灰石ほどMnに富む事を示唆している。よって、燐灰石のMn濃度はマグマの酸化還元状態でなく、共存鉱物との結晶順序を反映すると考察される。本研究の結果は酸化還元指標として有用なのはSとVであり、この2元素を相補的に使用することが望ましいと思われる。
文献:Trail et al. (2012) GCA 97, 70-87; Sha and Chappell (1999) GCA 63, 3861-3881; Miles et al. (2014) GCA 132, 101-119; Bromiley (2021) Lithos 384-385, 105900; Wang et al. (2022) Lithos 422-423, 106749; Lundgaard and Tegner (2004) Contrib. Mineral Petrol. 147, 470-483.
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