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[T16-O-4]Evolution of the atmosphere in the early Earth: In-situ quadruple sulfur isotope analysis on sedimentary rocks in the Eoarchean and numerical calculation of photochemical reaction★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*Ryota MIHORI1, Takayuki USHIKUBO2, Kenji SHIMIZU2, Tsuyoshi KOMIYA1 (1. Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo, 2. Kochi Institute for Core Sample Research, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC))
Keywords:
S-MIF,Eoarchean,Methanogen,Atmospheric variation
惑星大気は生命活動と相互に影響を与えながら変動する。地球におけるそうした共進化の歴史は、初期生命の存在が確認される約40億年前に遡るだろう。しかし、大気の直接のトレーサーが乏しいため、共進化の解明に必要な大気組成の推定は困難である1。その中で、硫黄の質量非依存同位体分別(S-MIF)は数少ないトレーサーの一つであり、特に2つのS-MIFの値の傾き(Δ36S/Δ33S)は大気組成を反映していると考えられるため、その変化は大気変動を解明する上で重要である2,3。しかし、原大古代のΔ36S/Δ33S値を用いて初期地球の大気組成を解明する研究は乏しい。その要因は二つある。第一には、統計的に確かなΔ36S/Δ33S値が得られていないという点である4。第二には、地質記録の典型的な-0.9という値を実験およびモデル計算によって再現できておらず、その値をもたらす大気組成の条件は不明であるという点である。また傾きは一時的に-1.5まで変化することが知られ、大気変動を反映していると考えられているが、そうした変化も低い炭素同位体比との相関からメタン濃度の上昇や有機物ヘイズの形成が想定されているにすぎず、メタン濃度がΔ36S/Δ33S値の変動の一意の要因であったか否かは定かではない5,6。したがって、本研究ではヌリアック表成岩(約39億年前)中の硫化鉱物に対して局所4種硫黄同位体分析を行い当時のΔ36S/Δ33S 値を求め、さらにその値をもたらす大気組成の条件について、これまで行われてこなかった遮蔽ガス種を導入したΔ36S/Δ33S値の変動シミュレーション計算に基づいて考察する。
Δ36S/Δ33S値は-1.31(R2 = 0.93, 2σ = 0.09, n = 68)だった。また、硫酸還元菌による同位体異常の効果を補正すると、Δ36S/Δ33S = -1.75(R2 = 0.95, 2σ = 0.15, n = 34)であることが既に指摘されている7。これらの傾きはいずれも-0.9より顕著に低く、当時の大気化学が大古代の典型的なものとは異なっていたことを示唆する。
SO2光分解反応の波長帯におけるガス種の遮蔽効果を組み込んだシミュレーション計算において、まずΔ36S/Δ33S = -0.9はOCSあるいはO3の柱密度を増加させたときに再現された。この結果はOCSとO3が長波長側ほど吸収断面積が大きくなることに起因していると考えられる。高いO3濃度がS-MIFの保存条件である貧酸素大気と矛盾するとすれば、大気上層におけるOCSの遮蔽効果が大古代の典型的な傾きをもたらした可能性がある。また、SO2の自己遮蔽効果も踏まえて、主に新大古代で確認されるδ34S/Δ33S = 0.9の値も同時に再現される条件を求めた計算では、OCSとSO2の柱密度を増加させたときに地質記録の2つの傾きが同時に再現された。この結果は、SO2の自己遮蔽効果が重要なメカニズムだったことを示唆する。さらに2つの傾きが再現されたOCS、SO2濃度を固定し、Δ36S/Δ33S = -1.75への変動をもたらす条件を計算した結果、H2OおよびC2H2の柱密度が増加したときに再現された。こうしたH2Oの柱密度の増加を実現するためには大気上層の温度を上昇させる必要がある。また、C2H2はメタンの光分解反応の中間産物であり、その増加はメタン濃度の上昇を示唆するが、このシナリオは新大古代の先行研究で示された傾きと炭素同位体比との相関と適合的である。以上を踏まえると、原大古代の大気は後の時代と比較して気温が高かった、あるいはメタン濃度が高かった可能性がある。特に後者は、メタン生成アーキアが初期地球において競合生物種の不在の中で繁栄していたことを示唆する。
1. Catling and Zahnle Sci. Adv. 6, 1420 (2020) 2. Zerkle et al. Nat. Geosci. 5, 359-363 (2012) 3. Kurzweil et al. Earth Planet. Sci. Lett. 366, 17-26 (2013) 4. Thomassot et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 112, 707-712 (2015) 5. Izon et al. Earth Planet. Sci. Lett 431, 264-273 (2015) 6. Izon et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 114, 2571-2579 (2017) 7. Mihori et al. JPGU, Chiba (2024)
Δ36S/Δ33S値は-1.31(R2 = 0.93, 2σ = 0.09, n = 68)だった。また、硫酸還元菌による同位体異常の効果を補正すると、Δ36S/Δ33S = -1.75(R2 = 0.95, 2σ = 0.15, n = 34)であることが既に指摘されている7。これらの傾きはいずれも-0.9より顕著に低く、当時の大気化学が大古代の典型的なものとは異なっていたことを示唆する。
SO2光分解反応の波長帯におけるガス種の遮蔽効果を組み込んだシミュレーション計算において、まずΔ36S/Δ33S = -0.9はOCSあるいはO3の柱密度を増加させたときに再現された。この結果はOCSとO3が長波長側ほど吸収断面積が大きくなることに起因していると考えられる。高いO3濃度がS-MIFの保存条件である貧酸素大気と矛盾するとすれば、大気上層におけるOCSの遮蔽効果が大古代の典型的な傾きをもたらした可能性がある。また、SO2の自己遮蔽効果も踏まえて、主に新大古代で確認されるδ34S/Δ33S = 0.9の値も同時に再現される条件を求めた計算では、OCSとSO2の柱密度を増加させたときに地質記録の2つの傾きが同時に再現された。この結果は、SO2の自己遮蔽効果が重要なメカニズムだったことを示唆する。さらに2つの傾きが再現されたOCS、SO2濃度を固定し、Δ36S/Δ33S = -1.75への変動をもたらす条件を計算した結果、H2OおよびC2H2の柱密度が増加したときに再現された。こうしたH2Oの柱密度の増加を実現するためには大気上層の温度を上昇させる必要がある。また、C2H2はメタンの光分解反応の中間産物であり、その増加はメタン濃度の上昇を示唆するが、このシナリオは新大古代の先行研究で示された傾きと炭素同位体比との相関と適合的である。以上を踏まえると、原大古代の大気は後の時代と比較して気温が高かった、あるいはメタン濃度が高かった可能性がある。特に後者は、メタン生成アーキアが初期地球において競合生物種の不在の中で繁栄していたことを示唆する。
1. Catling and Zahnle Sci. Adv. 6, 1420 (2020) 2. Zerkle et al. Nat. Geosci. 5, 359-363 (2012) 3. Kurzweil et al. Earth Planet. Sci. Lett. 366, 17-26 (2013) 4. Thomassot et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 112, 707-712 (2015) 5. Izon et al. Earth Planet. Sci. Lett 431, 264-273 (2015) 6. Izon et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 114, 2571-2579 (2017) 7. Mihori et al. JPGU, Chiba (2024)
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